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武器一覧 プレイヤーのHPは100 ハードコアの場合は30 ストッピングパワー装備時は威力が1.4倍。 ヘッドショットした場合は威力が1.4倍。 ただしスナイパーライフルのみ1.5倍となる。 アサルトライフル 名前 画像 威力 近−中−遠 サイレンサー装備時 装弾数/予備弾数 Exmag装備時 備考 解除Lv M4A1 30-30-20 30-20-20 30/60 45/45 フルオート。威力は低いがブレが少なく、射撃レートが高いので近中遠距離すべて対応できる。ACRとよく似ているが、こちらのほうがレートが高い。リロード時間や武器切り替え時間も短く使いやすい。 4 FAMAS 40-40-30 40-30-30 30/60 45/45 3点バースト。ストッピングパワー装備時なら、どの距離でもワントリガーで倒せる事が出来る。M16と比較しても、リコイルが小さいため使いやすい。 1 SCAR-H 40-40-30 40-30-30 20/40 30/30 フルオート。ブレが少なく、アイアンサイトが非常に見やすいため、使いやすい。だが弾数が少ないため、スカベンジャーが必須。射撃レートも低い。 8 TAR-21 40-40-30 40-30-30 30/60 45/45 フルオート。威力が高く、射撃レートも高いので近中距離にとても強い。ブレが強いため遠距離は苦手だがバーストで十分対応出来る。 20 FAL 55-55-35 55-35-35 20/40 30/30 セミオート。アイアンサイトがとても見にくいため、アタッチメントにはサイト系必須。特殊な威力設 定なので、ストッピングパワーを装備しても近中距離のヘッドショットが一撃必殺になるだけなので、パーク2は選択肢が増える。ただしホログラフィックサ イトを装備した場合は最低威力が40に上がるため、ストッピングパワーを装備した場合、全距離2発で仕留められるようになる。サイレンサーを同時に装備し ても同じ。 28 M16A4 40-40-30 40-30-30 30/60 45/45 3点バースト。FAMASとよく似ているが、こちらの方がリコイルが激しいため使いにくい。ただし、ホログラフィックサイトを装備するとリコイルが小さくなる。/td 40 ACR 30-30-20 30-20-20 30/60 45/45 フルオート。全くと言っていいほどブレがないので使いやすい。だが威力が低く射撃レートも低いので火力不足を感じる事が多い。ストッピングパワー必須。 48 F2000 30-30-20 30-20-20 30/60 45/45 フルオート。射撃レートが非常に高く近中距離で力を発揮する。だがリコイルが激しいので、遠距離以上になると使い物にならない。SMGのような立ち回りが要求される。 60 AK-47 40-40-30 40-30-30 30/60 45/45 フルオート。威力が高くブレも少ないので使いやすい。射撃レートはSCAR-HとTAR-21の間くらい。だが、ACOQスコープ以外のアタッチメントを装備するとブレが大きくなるため、アタッチメントを付けないほうが使いやすい。 70 SMG 名前 画像 威力 近−中−遠 サイレンサー装備時 装弾数/予備弾数 Exmag装備時 備考 解除Lv MP5K 40-20-20 40-20-20 30/60 45/45 威力と射撃レートともに高いが、ブレが激しいため中遠距離以降は使い物にならない。だが近距離は全武器も中でもトップクラスの性能をもつ。 4 UMP45 40-35-35 40-35-35 32/64 48/48 特殊な威力設定なので、ストッピングパワーを装備しても近距離で倒す弾数が3発から2発になるだけなのであまり意味がない。サイレンサーと冷血を装備して裏をかくのにもっとも相性のいい武器といえる。SMGの中でも射撃レートが低いので接近戦は比較的苦手。 1 Vector 25-20-20 25-20-20 30/60 45/45 射撃レートはP90とMini-Uziと並んで最速。ただしラピッドファイア装備時はこれらの武器よりも上昇率が高くもっとも最大となる。威力が非常に低いため弾の消費も早い。若干ブレもあるため中距離以降は厳しい。 12 P90 30-20-20 30-20-20 50/100 75/75 射撃レートが高く、ブレも小さいため、中距離以降も対応できる。弾数も多いため弾切れすることが少ない。ラピッドファイアを装備しても、レートはほとんど変わらないので装備しないほうが良い。 24 Mini-Uzi 30-20-20 30-20-20 32/64 48/48 Vectorと似ているが、こちらのほうが威力が若干高い。腰だめの集弾率が高くアキンボとの相性も良い。若干リロードが遅めでリロードキャンセルのタイミングも難しい。前作に比べたらリコイルが軽減されたため、使いやすくなった。 44
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――俺には、何が正しくて何が悪いのか、分からなくなっちまった。 ――俺の故郷、ミッドチルダの臨海空港で起きた無差別テロは、地球の超国家主義者たちの仕業だ。マカロフって言う、シェパードの大将曰くの"狂犬"だ。 ――奴が狂犬だって言うのはまったく同意だ。罪もない人々を、どうして撃ち殺せる。しかも子供も年寄りも関係無しだ。狂ってるとしか思えない。 ――だけど、その無差別テロに、うちの隊から派遣された奴が加わっていたと聞かされた時、俺は愕然とした。 ――アレン。お前とは顔を会わせてちょっとだけどよ、いい奴だってのはなんとなく分かってた。是非俺の家族に、唯一の妹に紹介したいくらいだ。 ――だってのに、どうしてお前が。シェパードの大将の命令だってのは知ってる。奴らの中に潜り込んで、情報を得ようとしていたってのも聞いてる。そのための作戦だったんだろう? ――けどよ、それで何人死んだんだろうな。挙句、アレンだって戻ってこなかった。マカロフは知っていたんだ、アイツがうちから派遣されたスパイだってことを。 ――俺たちへの、Task Forece141への信頼はアレンと共に死んだ。今は、その信頼を取り戻そうと行動中だ。地球の、南米ってとこに向かっている。マカロフへの切符が、そこにあるらしい。 ――けど、俺にはそれが正しいことなのかどうか分からない。シェパードの大将は、マカロフが無差別テロを起こすのを知っていて、その上でアレンを送り込んで加担させたんだ。 ――ティアナ。俺の可愛い妹。兄ちゃんはもう、何が正しいのか、何が悪いのか、分からなくなっちまった。どうしてそんなことを言うのかって? 決めたからさ。 ――マカロフを倒したら、次に俺が狙うのは、シェパードの首だ。無差別テロを起こしたのはマカロフだが、知っておいて"情報"のため、黙って見過ごした奴も同罪だ。 ――だってそうだろう。そうでなけりゃ、アレンが浮かばれない。だから俺は、マカロフを倒したら、今度はシェパードを殺す。それまでは、絶対に死ねない。 ――ティアナ。お前は、俺みたいになるなよ。兄貴として、お前だけは、真っ当で幸せな人生を送って欲しい。 ヘリの機内で手帳にペンを走らせていたティーダは、ふと視線に気付いて顔を上げる。合流して自己紹介を終えたばかりの同僚が、怪訝そうな表情でこちらを見ていた。 名前はなんと言っただろう。確か、ローチとか言ったか。いや、これはコールサインだ。本名はゲイリー・サンダーソンとか言う。それにしてもローチ(鮭)とは間抜けなコールサインだ。 「さっきから熱心に、何を書いてるんだ?」 ティーダが間抜けと評したコールサインとは裏腹に、ローチの声はローター音が響くヘリの機内であってもよく通るものだった。席に座って休んでいた何人かの同僚たちが、一度目を覚ます程度に は。結局彼らはまたすぐ眠りに戻っていくのだが、ローチは気にせず、怪訝な顔を崩さなかった。 パタンッと手帳を閉じて、ティーダは努めて簡潔に答える。日記みたいなものだ、と。質問者はへぇ、と意外そうな表情を浮かべた。 「魔法の世界出身って聞くから、日記ももっとこう、魔法でパパーッと書くのかと思ったぜ。それともアナログ主義なだけか?」 「何でもかんでも魔法にする訳ない。お前らだって、銃弾でお料理したりしないだろ?」 違いない、とローチは笑い、こちらから視線を外した。ホッと安堵のため息をティーダが吐いたことに、気付く様子はない。手帳の内容が知られれば、謀反の疑いありと拘束されるのは目に見えて いたからだ。どんな内容だ、と聞かれる前に彼は手帳を管理局の制服の胸ポケットに戻す。 大西洋上から精鋭部隊"Task Force141"を載せたヘリは、進路を一路、南米のブラジルに向けていた。そこに、マカロフへの切符があると言う情報を頼りに。 世界大戦、なんてものじゃない。文字通り世界と世界がぶつかり合う、次元間戦争はもうカウントダウン目前だ。阻止するのは、どうしてもその"切符"が必要だった。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第5話 Take down / 切符 SIDE Task Force141 四日目 1508 ブラジル リオ・デ・ジャネイロ ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 マカロフへの切符。常に神出鬼没、どこに姿を見せるか見当もつかない狂犬の居場所を探るには、彼の『お友達』に尋ねるのが一番だった。 シェパード将軍は言う。ミッドチルダ臨海空港で行われた奴らのテロは、いずれもアメリカ製の銃火器を使用して行われた。そこにアメリカ人の死体を――アレンのことだ――置いて、見事に民間 人大量虐殺の汚名をアメリカ合衆国に被らせた。ミッドチルダは反米感情、と言うよりはもはや反地球感情とも言うべき報復を望む声が半数以上を占めて、今にも戦争が始まりそうだった。昨日ま での同盟と言う繋がりは、今日では導火線と化している。 だが、真相を知るTask Force141は知っていた。マカロフたちの使った銃はアメリカ製でも、使用された弾薬までもはアメリカ製ではなかったのだ。製造国は南米、ブラジル。マカロフはブラジル にいる武器商人を通じて、弾薬を調達していたと言うことになる――その武器商人こそが、マカロフへの切符だ。 「ゴースト、ナンバーが一致した。間違いなくロハスと敵対する一味の奴らだ」 「了解。奴の"右腕"は?」 「姿を見せていない」 出来れば観光で来たかったな、と現地調達した車の中で、助手席に座ったローチは流れ行く町並みを見て思う。片耳に入れたイヤホンでは上官とその部下が、すぐ前を行く監視対象の車について 話し合っていたが、もう追跡を開始して一時間は経過している。もちろんローチはしっかり見張りを続けているが、任務の最中にほんの少しの雑念くらい許されたっていいだろう。運転席に座る同 じTask Force141の黒人兵士など、ダッシュボードの上に腰をフリフリさせるハワイアンな人形を置いているくらいだ。実にセンスがいいと思う。 「おい、止まったようだぞ」 後部座席に座っていた異邦人の言葉を受けて、ハッとローチは意識を切り替えた。ほら、と身を乗り出して指差してくる時空管理局所属の――Task Force141は混成部隊だ、各方面の精鋭が集まっ ている――ティーダ・ランスター1尉の声に導かれるまま、ずっと尾行を続けていた車の様子を見る。なるほど、ずいぶん豪勢な玄関を持ったビルの正面に追い続けていた車が、ついに停車してみ せた。これはいよいよ、出番が来るかもしれない。 今回の作戦の第一段階は、つまるところ『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』だ。マカロフの『お友達』こと武器商人、アレハンドロ・ロハスは言ってしまえば、ギャングたちの頭領のような存在 だ。現地では彼と敵対する一派も多いらしく、ローチたちが尾行していたのもそういった連中だ。彼らはまずロハスの右腕と称される人物に襲撃を仕掛けるつもりらしい。そこにTask Force141が 横から割り込み、ロハスの右腕を確保する。そして『お話』を聞かせてもらい、最終的にロハスの居場所を確認すると言うことだ。マカロフまでの切符を手に入れるのは、いくつも駅を乗り継いで 行く必要がある。 ビルの玄関前で止まった尾行中の車から、二人の男たちが出てくる。私服のラフな格好だったが、その目つきはいかにもチンピラと言った具合だ。ホルスターすら持たず、拳銃をそのまま手に持 って歩いていくのがさらにチンピラと言う印象を強めた。彼らは尾行に気付かぬまま、ビルの玄関に足を踏み入れようとする。 「出てきたぞ、だがお友達ではなさそうだな……」 離れたところで様子を見守る現場指揮官、マクダヴィッシュ大尉の声が通信の電波に乗って耳に飛び込む。二人のチンピラの前に、こちらも私服でラフな格好をした男が姿を現したのだ。すかさず ローチは手元のファイルに視線を下ろし、男の顔と事前に配布された写真を見比べる。特徴一致、間違いなくロハスの右腕だ。尋ねてきたチンピラたちと違って、骨のありそうな奴だった。 チンピラの一人が、何か言った。それに対し、"右腕"の男も何かを言い返す。チンピラたちは――最初からそのつもりだったに違いない――言葉を返さず、代わりに持っていた拳銃の銃口を、男の 眼前に突きつけた。確かに、マクダヴィッシュの言う通り友達ではなさそうだ。 まずいな、情報を得る前に"右腕"が殺されるんじゃないか。ローチの懸念は、しかし杞憂に終わった。チンピラが突き出した拳銃は、素早く男によって奪われる。あっという間に形勢逆転、"右腕" の男は奪った拳銃の引き金を引いてチンピラを射殺し、もう一人にも銃を構えさせずに発砲、これも射殺。鮮やかな手並み、「すげぇ」と運転手の黒人兵士が呟いてしまうほど。 「ゴースト、状況発生だ――ローチ、伏せろ!」 ローチたちにとって予想外だったのは、"右腕"の男が奪った拳銃をそのまま、こちらに向けてきたことだった。マクダヴィッシュの警告が耳に入る頃には銃声が響き渡り、フロントガラスが甲高 い断末魔を上げて割れる。舞い散る鮮血、銃弾をもろに浴びた運転席の黒人兵士は悲鳴もないまま倒れ、ハンドルに力なく寄りかかった。鳴り響くクラクション、不快な警告音はまるでローチにさ えも発せられているようだった。 「馬鹿、伏せろってんだろ!」 後部座席から伸びてきた手によって、強引に彼は狭い車内で頭を下げる羽目になった。ダッシュボードにゴンッと頭を打つ。痛い。だが、死ぬよりマシだ。運転手の私物だったハワイアンな人形は 銃撃によって主人と共に倒れ、それでも腰をフリフリさせていた。シュールな光景、だが現実だった。 銃撃は止んだ。顔を上げれば、ロハスの右腕は身軽な格好を生かして交差点を抜け、街中に飛び出していくのが見えた。直後、耳をつんざくような悲鳴と銃声。拳銃を撃って、市民たちの間にパニ ックを引き起こさせたのだろう。混乱に乗じて逃げるつもりか。 「奴が逃げる! 追え、ローチ、ティーダ! ゴースト、運転手が死んだ! ホテル・リオに向かえ、奴を生け捕りにしろ!」 「了解、向かってます!」 「ほら、ローチ、何やってる。マクダヴィッシュ大尉のご命令だぞ」 「あぁ、分かってる。急かすな」 後部座席からすでに抜け出したティーダに言われるまでもない。蹴飛ばすようにドアを開けて、車から降りたローチは走りながら銃を持ち出し、セーフティを解除する。ACR、Task Force141で多く の隊員が使用しているアサルトライフルだ。ティーダも臨戦態勢に入り、バリアジャケットを起動。私服の上にタクティカル・ベストやサポーターを装備するローチたちと違って、そちらはいかに も魔法使いと言った様子だった。空を飛べるはずだが、今は自分の足で走った方が速い。 表通りに出ると、街は悲鳴と逃げ惑う人々で溢れていた。運悪くブレーキを踏み損ねたらしい一般車が、公衆電話に頭から突っ込んで火を上げてすらいた。どうか爆発しませんように、と銃を構 えたまま走るローチはそのすぐ脇を駆け抜け、混乱の渦の中にあったリオ・デ・ジャネイロの街並みを走っていく。 「奴は路地に逃げ込んだ、すぐ右だ!」 「何で分かる」 「魔法で追跡してんだよ!」 なるほど、便利だな。共に走るティーダからのアドバイスを受けて、彼は道路を右に曲がった。人通りのない小汚い路地裏、視線を素早く走らせる。いた、ロハスの右腕! 一目散に逃げている! その時突然、ロハスの右腕は急停止し、方向転換するような仕草を見せた。まるで障害にでもぶち当たったような――否、彼にとっては本当に障害だ。ソフトモヒカンの屈強そうな男と、顔を"お 化け"のように彩った兵士が路地裏の奥から姿を現し、その行く手を阻んだのだ。マクダヴィッシュ大尉と、その部下ゴーストだ。 「ローチ、足を狙え!」 逃げ場を失った"右腕"の男は、こうなればと持っていた拳銃を出鱈目に発砲。たまらず皆物陰に身を隠すが、それでも上官からの指示が飛ぶ。無茶苦茶な、と胸のうちで悪態を吐き捨てるローチは しかし、隣にいた魔法使いの青年にアイ・コンタクト。援護しろ、と視線で伝えて、ACRを構えて飛び出す。 ロハスの右腕は、飛び出してきたローチに当然、銃口を向けた。その銃口が、乾いた魔力弾の発砲音と共に、上空に跳ね飛ばされる。ティーダの、拳銃のような形をした『魔法の杖』が放った文字 通りの魔法の弾丸によるものだ。武器を失った標的に向けて、ローチはACRのダットサイトを照準。引き金を引き、銃撃。小さな五.五六ミリ弾特有の反動が銃床を当てた肩を揺らし、銃声と共に "右腕"の男はその場に崩れ落ちた。致命傷にならないよう、足のみを撃ち抜いた精密射撃。 「倒した。よし、拷問だ。とにかく拷問にかけろ」 「意外と物騒ですね、大尉」 「これが英国紳士流さ」 足を押さえてくぐもった悲鳴を上げるロハスの右腕を引きずり起こし、マクダヴィッシュとゴーストは妙に楽しそうに会話を繰り広げる。 「なぁ」 「ん?」 「お前んとこの上官って、みんなああなのか」 拳銃型デバイスの銃口を下ろし、何とも言えない微妙な表情をするティーダからの問いかけに、ローチは答えることが出来なかった。 最低限の応急処置を足に施されたロハスの右腕は、マクダヴィッシュたちの手によって近くのガレージにまで連行された。もちろん、撃たれた足を治療するためではない。その証拠に、ゴースト が車から外したバッテリーのコードを持って、バチバチとこれ見よがしに火花を散らしていた。これを治療用の道具と呼ぶには、いささか無理がある。 「ローチ、ティーダ。俺とゴーストは彼と大事な"お話"がある。ロイスとミートと一緒に、貧民街を調査してくれ。ロハスの手掛かりがあるかもしれん」 それだけ告げて、マクダヴィッシュはシャッターの奥に姿を消していった。「あの、ちょっと」とシャッターが下りる直前にローチは呼び止めようとしたが、聞こえなかったらしい。 傍らにいたティーダと顔を見合わせ、言葉を発さないコミュニケーション。お互い、言いたいことは顔に書いてあったのだ。「あれで大丈夫かね」と。結論は出ない。今はマクダヴィッシュの言う "お話"にロハスの居場所が含まれることを祈るばかりだ。 「さぁ行くぞ、貧民街は北だ。この辺りはロハスの勢力下にあるチンピラがウロウロしてる、注意しろ」 コールサイン"ロイス"のTask Force141隊員は、そう言って先頭に立った。小汚い路地裏をコールサイン"ミート"の兵士とローチ、それにティーダを含めたたった四名の精鋭が突き進んでいく。 ロハスの支配下にある貧民街と言っても、住んでいる者は文字通りのチンピラから抵抗力のない民間人までと様々だ。歯向かってくる者は容赦なく射殺してもよいが、民間人まで巻き込むのはよろ しくあるまい。そんなことをすれば、自分たちはマカロフと一緒になってしまう。 「ミート、民間人に逃げるよう言え。スペイン語は出来るな?」 「あいよ」 貧民街の入り口に達した時、早速ロイスがミートに指示を飛ばす。前に出た兵士は、持っていたMP5Kの銃口を天に向け、異国の言葉で辺りにいた民間人たちに警告を発する。 「Estoy en peligro aqui.!Escape!(ここは危険だ、逃げろ!)」 同時に銃の引き金を引いて、空に向けて警告射撃。突然の銃声に驚いた人々は、悲鳴を上げながら我先にへと逃げ出していった。それだけなら任務はやりやすかったはずなのだが、性質が悪いのは 逃げるのを由としないチンピラどもだ。彼らは何よりも、自分たちのテリトリーを侵されることを嫌う。案の定、アロハシャツや短パンのままで銃を手に四方八方から、チンピラたちが飛び出して 来た。ローチたちを血走った目で見つけた彼らは、早速歓迎パーティーを開始する。ただし、クラッカーとケーキのお持て成しはない。銃弾の雨で歓迎だ。 「くそったれ、地球人どもはみんな野蛮人か!」 「お前が言うな」 互いの死角をカバーし合いながら、ローチはACRを、ティーダは拳銃型のデバイスを敵に向けて撃つ、撃つ、撃つ。貧民街に響き渡る銃声。照準の向こうで狙いを定めたチンピラたちが、引き金を 引く度にバタバタと倒れていく。所詮、奴らはまともな訓練も受けていないのだ。とにかく滅茶苦茶に撃って、相手をビビらせる程度しか能がない。怖いのは流れ弾くらいかと思われた。 ――しかし、ここは敵地だった。蜂の巣のど真ん中と言ってもいい。 突然、ティーダが振り返る。同時に、拳銃型デバイスの銃口を振り抜くようにして向ける。敵に向かって。貧民街は奴らの地元だ、目標の背後に回りこむ道なども心得ているのだろう。だけども その目論見は断たれた。乾いた銃声が二発響き、放たれた魔力弾がチンピラを殴り飛ばして大地に沈める。 「なんで気付いたんだ」 「忘れた? 俺、魔法使いだぜ」 尋ねると、発砲は止めずにティーダがどこからともなく、宙に浮かぶ光の玉のようなものをローチに見せ付けるようにして呼び寄せる。センサーのようなものか、と文字通り未知との遭遇を果たし た兵士は光の玉の用途を理解。用事が済んだと分かるなり、魔法使いは行ってこい、と空いていた左手を振って光の玉を貧民街の奥地に飛び込ませた。 「ロイス、状況を報告しろ!」 「出てくるのは地元のギャングどもばかりです、ロハスはいません!」 ちょうどその時、通信が舞い込んできた。マクダヴィッシュ大尉からだ。応答したロイスはMP5Kをフルオートで撃っても撃っても沸いて出てくるチンピラどもを蹴散らすが、彼の言う通り肝心の ロハスはいない。ひょっとしたらもう一緒に撃ち殺してしまったのでは、と一瞬その場にいたTask Force141隊員全員が思うが、奴は曲がりなりにも一味の頂点に立つ男だ。そうそう簡単に、前線 に出てくるとも考えにくかった。 アッと、短い悲鳴が上がる。振り返れば、民間人たちに警告を発したミートが被弾し、力なく地面に横たわっていた。咄嗟に、それを見たローチは駆け出す。背後で彼を止める声があったが、聞く はずもなかった。よせ、と手を伸ばすティーダに、逆に指示を飛ばす。 「援護しろ! ミートを助ける!」 「…馬っ鹿野郎が!」 飛び出してきたローチに、ギャングたちが容赦ない銃撃の雨を浴びせる。足元を銃弾が跳ね飛び、砂埃が舞う。死神が耳元で笑っている。走りながら照準も適当にACRの引き金を引き、敵に銃撃を 返すが、それで静かになるほど生易しいものでもなかった。かろうじて、援護のため魔法使いの放った弾丸が家屋の上に布陣するチンピラを数名薙ぎ倒し、ローチは被弾した味方の元に辿り着く。 首の根っこを片手だけで掴み、手近にあった家屋の中へ引きずっていく。しっかりしろ、とミートの身体を起こそうとするが、無駄だった。彼は、すでに事切れていた。 くそ、と罵りと悔やみの言葉を吐き出し、家屋を裏口から飛び出した。ギャングたちの、思わぬ方向から攻撃する魂胆だった。予想は当たり、敵はティーダやロイス、そして見えなくなった自分に 向けて銃撃を続けており、間抜けに背中や側面を曝け出している。 ACRの銃身に装着していた、M203グレネードランチャーを構えて敵に向けた。吹き飛ばしてやる、と引き金に指をかけたところで、左の路地から早口の英語ともスペイン語とも思しき、慌てた様子の 声が耳に入った。咄嗟に振り向けば、遅れてやってきたギャングの一人だった。対応は、お互いにどちらも一瞬遅れる。ギャングはまさかこんなところに敵がいるとは、と思わず、ローチは出てき たのがギャングが、それとも逃げ遅れた民間人だったのか判断がつかなかったからだ。まずい、と言語は違っても両者に同じ意味の言葉が脳裏を流れる。 結果として、ギャングはローチに打ち負けた。小銃のFALの銃口を構えるより早く、彼の放ったM203のグレネード弾が敵の身体を弾き飛ばしていたのだ。爆発はしない、近距離だったため信管が作動 しなかった。 「くそ」 とは言え、貴重な時間を食われたことだけは変わらない。タクティカル・ベストから取り出したグレネード弾を再装填、今度こそ最初に選んだ敵に向かって構える。 「ローチ、被弾した!」 構えた瞬間、ロイスの声が通信機に飛び込む。なんてこった、また味方がやられたのか。歯を噛み鳴らし、引き金を引く。ポンッと軽い発射音、放たれたグレネード弾は家屋の屋上にいた敵兵たち のど真ん中に飛び込み、炸裂。舞い散る破片と、呼び起こされた爆風の衝撃が否応なしにギャングどもを薙ぎ払う。奇襲だった。背後から撃たれた敵は恐怖し、人数では圧倒的に上回っているにも 関わらず退却へと移る。 敵が退いていく。今のうちだな、とローチは思い、路地を駆け抜け、ティーダたちと合流を果たした。だが、出迎えは決して敵を撃退したことへの賞賛ではなかった。肩から血を流し、壁に背中を 預けて苦しそうに呻くロイスと、懸命に治療に当たる――治癒魔法は苦手だ、と止血剤とモルヒネを用いていた――ティーダは、賞賛どころではなかったのだ。 「俺はいい、自分でやる。行ってくれ」 ロイスは、治療を続けようとする治癒魔法の使えない魔法使いの手を押し退ける。自分の持っていた手榴弾やフラッシュバンを持って行け、と渡しさえした。しかし、彼をここに放置すれば、また ギャングどもが戻ってきた時、果たしてどうなるか。いかに精鋭部隊の一員と言えど、負傷の身で、かつたった一人で置いて行かれれば。それでもロイスは行け、と言う。撃つぞ、とMP5Kの銃口を 仲間たちに向けようともした。 「行こう」 ローチは、頑なに指示に従わないティーダの肩を掴んだ。くそ、と吐き捨て、渋々魔法使いは立ち上がる。それでいい、と言ったロイスの顔を、二人は忘れることができなかった。 たった二人になってしまった追跡部隊は、貧民街を駆け進んでいく。その背後で、一発の銃声が響き渡っても、振り返ることなく。 SIDE Task Force141 四日目 1606 ブラジル リオ・デ・ジャネイロ ジョン・"ソープ"・マクダヴィッシュ大尉 ロハスの右腕は、なかなかに見上げた忠誠心だった。何度"お話"しようとこちらが提案しても、彼はあくまでも拒んでみせた。耐え難い苦痛を何重にもして浴びせかけているのに、主人の居場所 を喋ろうとしなかった。副官のゴーストでさえ、露骨に苛立ちを見せるほどだった。 それでも、結局のところ人間は苦痛には逆らえない。とうとう、奴はボスの居所を口にした。だからもうやめてくれ、と何度目かの"バッテリー接続"を拒むようにして。約束通り、ソープとゴース トは彼を解放してやった。解放と言う名の、放置である。椅子に縛り付けたままだが、警察には電話を入れておいた。あとは無事、発見されることを祈るばかりである。 ――それにしても、空からの援護があればもっと楽なんだがな。 部下と同じ、ACRを構えて貧民街を別ルートから突き進むソープは、軽機関銃の激しい銃撃に晒されながら、どこか他人事のように空を見上げる。青空と、ブラジル名物のキリスト像。だが彼が見出 していたのは観光名所ではなく、そこにはいない戦友のことだった。ほんの数年前、共に戦火を潜り抜けたあの魔導師の少年がいれば、心強かったに違いない。そう思いかけて、いや、やはりダメ だろうと考え直す。魔導師なら部隊に新しく加わっている。彼もかつての戦友と同様、空を飛ぶことが出来る。だが、この弾幕だ。地上でさえ、少し遮蔽物から身を乗り出すと、途端に銃弾の雨が 降り注ぐ。こんな状況で空に上がろうものなら、いい的になってしまう。 「ゴースト、お前はそのままロハスを追え。こっちも何とかして追いつく」 「大尉はどうするんで?」 「何とかするさ」 援護を提案してきた副官に対し、かつての新米SAS隊員は、数年前では浮かべることもなかった不敵な言葉を通信で送る。タクティカル・ベストからフラッシュ・バンを持ち出し、ピンを引き抜 き、身を潜める壁から腕だけ出して放り投げた。 爆発音。隠れていても分かるほどの閃光と、それに伴う轟音が鳴り止むのと同時に、ソープは飛び出した。視界に入ったのは、目や耳を抑えて苦しむ敵兵たち。右に一名、左の屋根に二名、中央の 屋根に一名――数えながら、銃を持った腕は動いていた。ダットサイトで、敵を照準。引き金を引けば、短く軽い反動と共に銃声が高鳴り、チンピラどもが薙ぎ払われていく。右の一名を排除、左 の敵も射殺、中央の一名、短い銃撃、これも倒す。立ちはだかるギャングを一掃し、先に進む。 「マクダヴィッシュ大尉、ティーダが上からロハスを探すって言ってます!」 銃口を前に突き出しながらも急ぎ足で駆け、その途中でローチからの通信。同行する魔導師、ティーダが飛び上がろうと言うのだ。 「ダメだ、上空に出たら的になる」 「覚悟の上です、大尉。最悪、囮にはなる。地面で這い蹲って死ぬのは御免です」 「死ななきゃいいんだ。頭を冷やせティーダ、通信アウト!」 ティーダとの交信を、一方的に切った。命令を聞くだろうか。いや、聞くはずだ。言うことを聞かないほどの子供でもない。 ロハスの右腕によれば、ボスの居場所は貧民街の西に向かっているという。Task Force141は、これを三つに分けて追跡していた。ローチとティーダのチーム、ゴースト、そして自分だ。貧民街は小 高い丘の上に沿って立ち並んでいるため、標的を追い詰めるとすれば上へ上へと追い込んでいくのがもっとも手っ取り早く効果的だ。そして、作戦は現に目論見通りになりつつあった。 「こちらゴースト! 大尉、奴は屋根の上を進行中です、すぐ近くです! ローチ、ティーダ、追い込め! 俺も行く!」 屋根の上、か。ソープは、部下の言葉を聞いて一旦立ち止まった。周囲に視線を走らせ――運がいい、梯子がある。ACRを肩に引っ掛けて、上に昇る。筋肉が軋み、悲鳴を上げるのにも構わず、彼 は家屋の屋上に上がった。この辺りではそこそこに大きな、周辺の家屋の屋根を全てを一望できる程度には高い位置だった。目を凝らすまでもなく、下に向けて銃を撃ち下ろし、時折反撃を喰らっ ては倒れていくギャングたちが見えた。その最中で、必死に逃げの様子を見せる明らかに怪しい人影が一つ。奴だ、ロハスだ。重たそうな黒いバックを抱えているが、あれではスピードは出まい。 ようし、先回りだ――進行ルートを読んだソープは、屋上から一段低い隣の家屋の屋根に飛び移る。跳んで走って、屋根を乗り越え、大地に戻ると駆け出し、また屋根に昇る。二階建ての家屋に入 った時は体当たりで扉を突き破ってベランダに出て、そこからさらに隣の一軒家の屋根へと飛び移って進む。 途中、屋根の上から一瞬ではあったが、ローチとティーダ、その反対方向からゴーストの姿が見えた。ロハスは、彼らに挟み撃ちにされることを知らず、逃げ続けている。このまま確保出来るか。 だが、寸前で奴は気付いた。正面から迫るゴーストと、背後から来る兵士と魔導師のチームの挟撃は、横に逃げることで回避されようとしていた。 「逃げられる!」 ゴーストの声。その声が通信機に飛び込んだ時、ソープは一瞬、口元に笑みを浮かべた。不敵な笑みだった。 「そうはさせんさ」 ガッと、扉をぶち破る。三階建ての家屋の最上階に侵入した彼は、そこで出会った。目標、ロハスと。奴は、驚き竦むような表情を見せていた。そのわずかな間の恐怖が、彼の動きを止め、隙を生 み出してしまう。一切の躊躇なく、ソープは標的の身体に飛びつくと、そのまま窓ガラスをぶち破って大地へ急降下。 幸いにも、下には車があった。屋根が思いのほかクッションになり――そう呼ぶほど柔らかいものでもないが、少なくとも死なない程度には落下の衝撃を抑えた――ロハスの確保に成功。ひぃ、と 怯える標的に向けて、拳銃、かつての上官から受け継いだM1911A1を引き抜き、銃口を突きつけた。ホールドアップ、これでもう逃げられない。 遅れてやってきたローチとティーダが、ぽかんと間抜けに口を開いてこちらを見ていた。ソープは二人の視線に気付き、言う。 「これぞ英国流さ。皆、ご苦労だった。さぁ、マカロフについて知ってることを喋ってもらおう」 戻る 次へ
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ストリークと基礎トレーニングレクイジション オードナンス 電撃戦 ストリーク一覧 取得キル数早見表 コメント スコアストリーク ポイントを溜めることで使用できる特殊兵器。死亡するとポイントがリセットされる。 ルールに乗っ取った行動を取るほどポイントが大きい。例えば、ドミネーションにおいては、旗周辺でキルすることで攻撃・防衛ボーナスが付く。 本作では司令部で練習可能なので、解除前の試し撃ちや実戦前の練習に利用しよう。 ちなみに、相手の基礎トレーニングはキルカメラで確認できる。 ストリークと基礎トレーニング レクイジション 必要なスコアストリークポイントが大幅に増加する代わりにデスしてもポイントがリセットされない。初心者向け。以前は上位ストリークが1000~600ポイントほど必要なスコアが少なかったため上級者(特にパーティ)が使用してカオスな状況になることが多かったが修正で弱体化、現在のポイント数に落ち着いている。 オードナンス 必要なポイントが減少する。電撃戦との違いはポイントを得る手段が豊富なオブジェクトルールと相性がいいところ。 電撃戦 ポイントストリークからキルストリークに変更、ストリークの効果が強化される。オードナンスとの違いはキルのみがストリークに反映されポイントの恩恵が無いところ。上級者なら上記二つよりこちらの方が効率が良いことがある。 ストリーク一覧 ※必要条件の一段目は通常時のスコア、二段目はオードナンス使用時のスコア、三段目はレクイジション使用時のスコア、 四段目は電撃戦使用時の必要キルストリーク数、五段目はランクマッチでのスコアの順で表記している。 名前/画像 必要条件 説明 解除レベル 火炎瓶 3002256503キル使用不可 着弾地点周辺を炎上させる投擲武器。とにかくポイントが低いので発動しやすい。発動しても投擲するまではキルされても何度でも発動できる。直撃で即死。着弾後もしばらくは炎のダメージゾーンが発生し、踏むとスリップダメージが入る。電撃戦を使用時投擲できる火炎瓶の個数がβ版同様に2つになる。アナウンスでは「ガソリン爆弾準備良し」とか「モロトフカクテル準備良し」とか言われるがすべて火炎瓶のことである。(詳細は用語集参照) Lv.X 偵察機 5003757504キル使用不可 ミニマップに一定周期で敵を表示する。効果時間は30秒。対空手段の乏しい本作では強力なストリーク。重ね掛けで効果が増強され、二重で更新間隔短縮、三重で敵の向きも分かるようになる。偵察機は撃墜が可能だが硬く、通常の銃ではあまり現実的ではない。偏差射撃のロケットランチャーやFMJを装備したLMGなどなら比較的容易。その他、対偵察機、戦闘機乗り、高射砲、ボールタレットガンナーなどでも撃墜可能。電撃戦を使用時、有効時間が5秒延長される。ストリーク選択画面のモデルはO-57,58,59グラスホッパー。 初期 対偵察機 5254008004キル利用不可 敵の偵察機か対偵察機を撃墜する。撃墜対象がいない場合は30秒間上空を旋回して敵の偵察機を使用不能にする。偵察機と同じ条件で撃墜が可能。電撃戦を使用時、敵偵察機を阻止する時間が10秒間延長される。選択画面のモデルは米陸軍のP-61 ブラックウィドウ。 Lv.X 救援物資 5754509005キル利用不可 輸送機がストリークに入った箱(枢軸)や袋(連合)を投下する。赤色のマーカーを焚いてから約9秒で到着。中身は完全にランダムだが、火炎瓶と救援物資と緊急支援物資、V2ロケットが出ることはない。それ以外ならボールタレットガンナーが出ることも。確率的には救援物資以上のストリークが出る可能性は約4~5割なのでお得である。ちなみにLONDON DOCKSのような海のあるところにマーカーが落ちるとストリークは消費されるが救援物資は来ない。輸送機は撃墜可能だが難しい。投下された物資に潰されると敵、もしくは自分のみ即死する。(「万に一つの・・・」勲章がもらえる)電撃戦を使用時、救援物資の再抽選が可能になる。また、電撃戦で取得した支援物資から出てくる物は電撃戦の効果が乗ったストリークになる。 初期 戦闘機乗り 62550010005キル850 戦闘機に乗って急降下機銃掃射を行う。マップで位置(左スティック)と侵入方向(右スティック)を決め、操作画面に切り替わる。指定できる場所は直線的であるが、操作中はそれなりに左右に融通が効く。ちなみに偵察機、対偵察機より高空からダイブするので位置が良ければ撃墜することもできる。ランチャー、銃弾で撃墜可能(あまり現実的ではないが)。また、高い建物のある方向に進入させると機首の引きおこしが間に合わず激突して墜落していることもある。電撃戦を使用時、戦闘機がより高高度から突入し、長時間操作できるようになる。選択画面のモデルはP-47。 Lv.X 滑空爆弾 65052511006キル700 爆撃機から誘導爆弾を投下する。投下後はプレイヤーが操作し、着弾地点を合わせる。また操作する際は上下が反転するため注意。投下位置はランダムで場所によってはマップの端に届かないことがある。×ボタンで操作を中止できる(爆弾は通常どおり落下する)電撃戦を使用時、旋回能力と加害半径が上昇する。アナウンスでは「フリッツX(エックス)」(枢軸)とか「Azoneボム」(連合)とかいわれる。詳細は用語集参照。 初期 火炎放射器 70055012507キル950 火炎放射器を装備する。炎耐性の無い敵ならば簡単に倒せる。閉所では最強だが、射程が短いので開けた場所での使用は避けたい。また、機動力、ダッシュ距離がLMG相当になる模様。5秒間放火でき、タップ撃ちすると最高25回までであるため、1回の放火で最低でも0.2秒分消費する模様。キルされても燃料がなくなるまではずっと使用できる。電撃戦を使用時、火炎放射器の燃料が増加し、移動能力が強化される。モデルはM2火炎放射器。 Lv.X 迫撃砲攻撃 75060014007キル750 マップ上で指定した3か所に砲撃を行う。バラバラに指定してもいいがある程度固めて指定した方がキル効率はいい。電撃戦を使用時、さらにもう一か所砲撃地点を選択でき、着弾までの時間が短縮される。 Lv.X 連続砲撃 85070014258キル825 マップ上で指定した1か所の場所を15秒間砲撃し続ける。敵をキルする、というより特定の地点への侵入を阻むという使い方をする物でハードポイントやドミネーションなどで特定箇所への侵入を完全に封じることができるのでかなり強力。電撃戦を使用時、砲撃時間が延長される。 Lv.X 高射砲 95080016509キル800 発動した瞬間に敵航空機を全て撃墜し、30秒間敵の航空ストリーク発動を封じる(火炎瓶、迫撃砲、連続砲撃などは発動できる)。対偵察機の上位版。空中を飛んでいる物なら何でも(空挺部隊は降下中に限り一掃できる)撃墜できるが滑空爆弾の撃墜はできない。敵がレクイジションで大型ストリークを仕込んでいる気配があるなら入れておくと安心できる。電撃戦を使用時、効果時間が15秒延長し、45秒間継続する。 Lv.X 緊急支援物資 1000850240010キル利用不可 緑色のマーカーで指定した地点に3つのパッケージを投下する。地味にMW2からの復活。複数ゆえに単体のパッケージより事故率が高い。投下は常にマーカーを中心とした「横一列」に向かって行われる。縦ではないのでマーカー位置には注意。一人で複数取得した場合、新しいものから消費されることになるため、一人で全部とるなら瞬間的に使いたい順番を見分ける必要がある。マップとモードによってはかなりリスキー。電撃戦を使用時、救援物資の再抽選が可能になる。 Lv.X 焼夷弾爆撃 1050900270010キル1050 マップ上で位置と飛来方向を指定すると、それに沿って爆撃機が縦列的に焼夷弾を投下していく。爆撃跡にしばらく炎が残り続ける。電撃戦を使用時、投下された焼夷弾の炎がより長時間持続する。選択画面のモデルはB-24。 Lv.X 空挺部隊 12501100330012キル利用不可 AI操作の空挺兵を4人召喚する。降下地点は「発動した場所周辺」。敵の裏側などで使うと効果が上がる。建物内でも問題は無いがたまに建物にひっかかるバグが起こることがある。降下時が無防備なので敵が発動した場合は倒しておきたい。空挺部隊が空にいる状態なら高射砲で全滅させられる。体力は通常のプレイヤー同様100。所属師団は空挺部隊らしくスコアストリークには写る。相手が出してきたら戦闘機乗りなどで一掃するのがいいだろう。持っている武器はランダムで(SRは無い模様)、ベテランBOTのエイムをしてくるうえ伏せ撃ちやジャンプ撃ち等もしてくるため下手なプレイヤーより厄介。たまにショベルを持って舐めプしている者もいる(が百発百中の投げナイフを駆使してくるためやっぱり強い)。一度発動すると死ぬまで次の空挺を呼ぶことは出来ない。電撃戦を使用時、さらにもう1人追加で空挺部隊が追加され、その能力が上昇する。体の中心を狙うBOTである宿命か、騎兵の盾には棒立ちで撃ち込んで来るため容易に無力化出来る。 Lv.X 絨毯爆撃 14001225385013キル1400 発動すると自動的に爆撃を行う。爆撃機は3回侵入する。爆撃は呼んだプレイヤーの周辺以外を全て爆撃する。絨毯爆撃を呼んだプレイヤーがいると、爆撃が終了するまで空域が混雑して他のプレイヤーは呼ぶことが出来ない。広域を爆撃するのでかなり強力だが着弾時の画面揺れが非常にうっとうしいのが難点。電撃戦を使用時、侵入回数が1回増加し、爆撃の間隔が短くなる。選択画面のモデルはA-20。 Lv.X ボールタレットガンナー 17001450480015キル1700 B17爆撃機の下部旋回銃座のガンナーとなり、地上へ銃撃を行う。武装は機銃のみだが、非常に威力が高い。マップ上空を旋回、30秒で帰投。電撃戦を使用時、滞空時間を延長し、タレットのリコイルが減少する。リロードボタン長押しで即座に終了できる。 Lv.X V2ロケット 25キル これはポイントストリークではなくキルストリーク。各師団を一回プレステージした上で任意の師団でスコアストリークのキルを含まずノーデス25連キルを達成すると要請できる。要請すると10秒後にV2ロケットが飛来、着弾して相手チーム全員をキルする。過去作と違ってTDM、オブジェクトルールともにマッチは終了しない。V2ロケットの詳細に関しては用語集参照。 Lv.X 取得キル数早見表 ※キル数は1キル100点のルールで他の得点源を含まない場合。 ストリーク 通常 オード レクイ 電撃戦 火炎瓶 3 3 7 3 偵察機 5 4 8 4 対偵察機 6 4 8 4 救援物資 6 5 9 5 戦闘機乗り 7 5 10 5 滑空爆弾 7 6 11 6 火炎放射器 7 6 13 7 迫撃砲攻撃 8 6 14 7 連続砲撃 9 7 15 8 高射砲 10 8 17 9 緊急支援物資 10 9 24 10 焼夷弾爆撃 11 9 27 10 空挺部隊 13 11 33 12 絨毯爆撃 14 13 39 13 ボールターレットガンナー 17 15 48 15 コメント
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ほんの数年前、彼はまだ新米だった。 もちろん、厳しい選抜試験を突破して着任してきたのだから、本当に何も出来ない新米ということはなかった。イギリス陸軍特殊部隊、通称"SAS"に配属されたことが、彼の能力を物語っていた。 それでも実戦経験が無いという意味では、やはり彼はまだ垢抜けきらない新兵であり、未熟さゆえのミスもあった。それが元で死に掛けたこともあり、上官が助けてくれなければ今の自分はあり得なかっただろう。 やがて月日が経って、彼は新米を卒業し、大尉にまで昇進した。指揮官となり、部下を持つようになった。最初のうちはそれが実感出来なかった。俺が上官の立場になるなんて、あの頃は考えもしなかった、と。しかし、目の前の状況は彼にいつまでも新兵であることを許さず、生きたくば成長せよ、指揮官となれと命じてきた。 部下に命令を下す、というのは想像以上に辛いことだった。自分の命令一つで、彼らは死ぬ可能性だって充分にある。あるいは、最初からそうしろと言わざるを得ないこともあるかもしれない。死んで来い、と。 だからこそ、彼は自分に出来た部下がかわいくてしょうがなかった。彼らは俺に命を預けてくれている。ならばそれに応えるのが役目であり、そして部下たちは命令を忠実にこなしてきた。ここに来てようやく、彼は胸を張って言えるようになった。俺は指揮官である、俺は上官である、と。 その大事な部下たちが、裏切りによって死んだと聞かされた時、彼は何を思っただろうか。どう思っただろうか。 答えは彼だけが知っている。マクダヴィッシュ大尉、かつての"ソープ"だけが。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第17話 The Enemy of My Enemy / 二つの線 SIDE Task Force141 六日目 1603 アフガニスタン カンダハル南西160マイル 第四三七廃機場 ジョン・"ソープ"・マクダヴィッシュ大尉 「ティーダ! ゴースト! ゴースト! 聞こえないのか!? Task Force141、誰か応答しろ!」 誰でもいい。せめて誰か一人、応答してくれ。生き残っていてくれ。誰か。通信機に向かって怒鳴る自分の声に悲壮さが帯びてきていることなど、ソープが気付くはずもない。 退役した航空機が最後に辿り着く場所、墓場、スクラップヤードのど真ん中に彼はいた。敵に追われて、ここに逃げ込んだのだ――"敵"とは誰だ。もう判断がつかない。マカロフの率いる超国家主義者たちの奴らも、シェパードが指揮下に置く私兵部隊も。何もかも敵だった。 二箇所あるマカロフの隠れ家のうち片方であるアフガニスタンに辿り着いたソープたちだったが、そこにマカロフはいなかった。代わって現れたのが、シェパードが掌握している民間軍事会社"シャドー・カンパニー"の傭兵部隊だった。彼らは味方であるはずのソープたちを狙い、追ってきた。共に行動していた部下たちは次々と倒れ死んでいき、残ったのはどこかではぐれてしまったプライスと他数人となっていた。そして、今は一人だった。 通信回線は沈黙したままだった。誰も応答しようとしない。ティーダも、ゴーストも、ローチも、みんな。 くそ、と吐き捨て、ソープは拳を辺りに放置してあった航空機の残骸に叩き付けた。ガン、と硬い肉がジェラルミンの肌を叩いて金属音を響かせる。それで彼の怒りが消えるはずもない。 ≪彼らは死んだよ、ソープ。シェパードは隠れ家で証拠隠滅の真っ最中だろう≫ それまで沈黙を保っていた通信機に声が入る。信頼出来る――この状況においてはただ一人だけの、信頼出来る上官――プライス大尉のものだった。 「……シェパードが裏切りやがった!」 ≪裏切られるのが嫌なら、誰も信用せんことだ。俺のようにな≫ 仲間が死んだ。それも、味方だったはずの者の手で。そのはずなのに、プライスの声は淡々としていて、まるで他人事のようですらあった。 しかしそれは違うと、ソープは断言する。彼が信じる上官は、決してそのような冷血な男ではない。身を危険に晒してでも民間人を助けるし、脱出するヘリに飛び乗った時、滑って落ちかけた自分の手を掴んで放さなかったのもプライスだった。 冷静になれ、彼のように。怒りに呑まれるな――自らに言い聞かせた後、ソープは武器の確認を行う。短機関銃のMP5Kに、サイレンサー装着のM14EBR。手榴弾とフラッシュバンが数個。これでシェパードたちの私兵の追撃を振り切れるか。 ≪ニコライ、こっちの位置が分かるか≫ どうやらプライスは古馴染みの戦友と連絡を取っていたらしい。ニコライはかつて彼らが助けた諜報員の一人で、今は民間軍事会社の経営を行っている。つい先日、ブラジルで回収 のヘリを出してくれたのも彼だった。 ≪ああ、分かっている。しかし、そっちに向かっているのは俺だけじゃないぞ≫ まるでニコライの言葉とタイミングを合わせたように、ソープの聴覚は突然のロシア語を掠め取った。 ただちに物陰に身を隠して様子を伺えば、ジープやトラック、果ては装甲車までもが続々とこの航空機の墓場に現れ、武装した兵士たちが下りて来る。 彼らの不揃いな装備は正規軍ではないことを示していたが、同時に統率された動きはただのゲリラではないことも示していた。訓練を受けているに違いないが、正規軍ではない。とすると、超国家主義者たちか。 ≪シェパードの部隊と、マカロフの部隊だ≫ ≪一度に相手するには戦力不足だな……ニコライ、何で回収に来るんだ≫ ≪中古のC-130だ。チャフとフレアは満載してきたが、あいにく一〇五ミリ砲も四〇ミリ機関砲も搭載してない。あれは高くてAC-130化するには予算が……≫ 「それとも潰し合わせるか、だな」 ニコライとプライス、二人の会話にソープが割り込んだ。シェパードにとってTask Force141は『真実を知る者』として一刻も早く消してしまいたいだろうが、超国家主義者たちも敵であることには変わらない。超国家主義者たちにとっても同様であり、この廃機場は三つ巴の様相を表していた。 ≪ともかく向こうで落ち合おう、戦友≫ ロシア語訛りの英語で告げられて、ソープはふと思う。戦友、か。ここにクロノやジャクソンがいれば、どれだけ心強かっただろうか。 MP5Kのスリングを肩に引っ掛けて背中の方に回し、M14EBRを構える。目的地はこの先にある滑走路だ。そこまで行けば、ニコライのC-130が着陸して回収してくれる。 ゴースト、ローチ、ティーダ。お前らの仇は俺が取る。決意も新たに、ソープは駆け出した。 無造作に積み重ねられ、放置された様々な航空機の残骸の間を抜けて、ソープは進む。 彼はギリースーツを着ていたが、緑のカモフラージュ装備はここではかえって目立ってしまう。敵が来れば隠れ、まずは様子を伺う。敵とはこの場合、プライスと他に数名生き残っていると思われるTask Force141の隊員以外の者だ。 M14EBRを構えて進む彼の視界に、黒尽くめの兵士たちの姿が走る。即座に身を屈め、手近にあった旅客機の座席に隠れる。 兵士たちの装備はアサルトライフルのACRやSCAR-H、UMPなど西側のもののようだ。ソープが持つM14EBRもMP5Kも西側だが、銃は同じ陣営のものでも持ち主は敵同士だった。おそらくはシェパードの私兵部隊だろう。 敵兵たちは周囲を警戒しつつ、その場に居座る構えを見せた。参ったな、とソープは顔を曇らせる。ここを突破しなければ、ニコライの降りて来る滑走路に向かえない。狙って撃つのは簡単だが、一人殺せば残りの者がこちらに殺到するだろう。 こういう時にクロノがいれば楽なんだが――今は行方知らずの魔導師の姿が脳裏をよぎる。 その直後、私兵部隊に動きがあった。ソープが潜む場所とはまったく異なる方向に向けて何か指を指し、銃口を向けている。何事かと見守れば、目の前で突如、銃撃戦が始まった。視線を走らせると、超国家主義者たちが続々と集まり、シェパードの私兵部隊に襲い掛かっている。私兵部隊も応戦し、周囲は銃声と怒号で埋め尽くされていった。 チャンスだな、と彼は行動を開始した。身体を低くし、銃を油断無く構えたまま、しかしゆっくりと動き出す。放置されているコンテナの裏に回って、私兵部隊と超国家主義者たちが撃ち合っている隙に進んでしまう魂胆だった。 立ち止まり、角の向こうの様子を伺う。まだ動こうとしない黒尽くめの兵士がいた。数は二人、こちらに気付いた様子は無い。警戒にでも就いているのだろうが、おかげでその先に進もうと思っても進めない。 M14EBRのスコープを覗き込み、ソープは息を吸い、吐き出さず止める。引き金にかけた指に力を込めれば、小さな機械音が鳴って、肩に当てた銃床に反動があった。放たれた銃弾が、道を塞いでいた敵兵の頭部を貫く。 いきなり隣にいた相棒が撃ち倒されたことで狼狽したもう一人にも、間髪入れずに銃弾を叩き込む。悲鳴は銃声に掻き消されただろうから、敵が駆けつけてくることはあるまい。 ≪ソープ、出来るだけ奴らに殺し合わせろ。弾を無駄にするな≫ 言われずともやっているところだ。プライスからの通信に、ソープは沈黙で応じた。答えを返さないのが、了解を意味するところだった。 しかし、プライスは思いもよらぬことを口にする。 ≪敵の通信機を奪った。俺はこれからマカロフと交信を試みる≫ 「……なんだって? プライス、何を考えているんだ」 ≪マカロフ、聞こえるか。プライスだ≫ 本当に何をする気なんだ。信頼出来る上官を今更疑うつもりはないが、それゆえにプライスの行動の目的が彼にはさっぱり読み取れない。 敵兵同士の銃撃戦を尻目に先を急ぐ傍ら、ソープは片耳に入れた通信機のイヤホンにも神経を尖らせていた。 ≪シェパードは今や英雄だ、全軍の指揮権を手に入れた。お前の作戦計画もな。シェパードの情報を寄越せ、片付けてやる≫ 作戦計画、おそらくローチたちが襲撃した隠れ家で得た情報に違いない。マカロフ自身は直前で危機を察知して逃げ出しもぬけの殻だったが、シェパードにとってはどうでもよいことだったに違いない。マカロフの情報がそこにあるのは知っていただろうし、Task Force141の"処分"の方が重要だったはずだ。 しかしプライス、マカロフと共闘する気か。あの狂犬と。 ≪聞いているんだろう、マカロフ。このままではお前の命は一週間と持たんはずだ≫ 応答は来ない。いくらマカロフにとってもシェパードは敵とは言え、ムシがよすぎる話だったか。 次の瞬間、ソープは己の考えが誤りだったことに気付く。 ≪貴様の命もな≫ ――応答しやがった、マカロフだ。 ≪マカロフ、こんな諺を知っているか? "敵の敵は味方"だ。違うか?≫ ≪プライス、いつかその考えが諸刃の剣だということに気付くはずだ――シェパードなら"ホテル・ブラボー"だ。貴様にはそれがどこか、分かるな≫ ≪充分だ≫ ≪では、地獄で会おう≫ ≪ああ。先に行ったらザカエフによろしく言っておけ≫ 通信は、切れた。あの狂犬は、シェパードを倒すのを手伝ったことになる。 ホテル・ブラボーなる地点がどこを指すのかソープには分からないが、プライスはそれを知っている様子だった。今は彼を信じるしかない。 ≪ソープ、急げ! 西の滑走路だ!≫ 「分かってる、急かすな!」 銃撃戦を潜り抜けて、ソープはさらに前へと進む。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 六日目 時刻 1605 地球 アフガニスタン上空高度一〇万メートル 次元航行艦『アースラ』 ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 核爆発によって壊滅的な被害を受けた地球侵攻の次元航行艦隊の救援は、ひとまず一旦の終わりを見せた。 正確には、『アースラ』が収容できる負傷者の数が限界に達したのだ。シャマルや医療スタッフたちの懸命な治療のおかげで、重傷者もとりあえず命だけは助かることが判明している。 やれるだけのことはやった。それでも『アースラ』の乗組員たちが後ろ髪を引かれる思いだったのは、依然として救援を求める声が多数存在したからだ。ジャクソンもその辺りの事情はよく知っている。艦橋に上がった際、まだ地球の衛星軌道上に救難信号が多数発せられているのがモニターで見えたのだ。それを見て、この艦の指揮官が出来ることなら今すぐにでも助けに行きたいという思いを顔に隠し切れていないことも。 しかし『アースラ』は救援活動を終了させた。負傷者はこれ以上収容出来ないし、何よりも彼らには先にやるべきことがあった。残った救難信号はミスターRとミスRという支援者に任せた。そうするしかなかった。さもなければ、この戦争は本当にいつまでも続くだろう。 「エイミィ、どうだ」 艦橋にて、クロノが通信端末のキーボードを叩いていた艦の主任オペレーター、エイミィに状況を尋ねる。彼らは今、この戦争の元凶である超国家主義者マカロフを追う特殊部隊"Task Force141"とのコンタクトを試みようとしていた。 「とりあえず通信傍受でそのTask Force141って部隊がアフガニスタン付近にいるっていうのは間違いないみたい。でも、なんか様子が変なんだよね」 「変、とは?」 地球上のありとあらゆる通信を傍受し、デジタル暗号化も解除して丸裸にしてしまえたのは、エイミィが優秀なオペレーターであるからに他ならない。そこからさらに膨大な量に上る通信文の中から"Task Force141"という単語を検索にかけておおまかな居場所を突き止めるに至ったのだが、彼女の顔は浮かない様子だ。 「例えばこの通信。国防総省(ペンタゴン)から発せられてるんだけど」 状況を分かりやすく伝えるため、彼女はレーダー情報などを投影する大型スクリーンに傍受した通信文を映し出す。 自分の国の国防総省の機密通信をあたかも簡単に見せ付けられて、ジャクソンは複雑な心境に陥ったが、通信文を読むにつれて、彼を含めた艦橋に集まっていた機動六課準備室のメンバーの表情が疑念を宿していく。 「シャドー・カンパニーへ命令。Task Force141所属隊員の……捕縛、もしくは殺害命令?」 声に出して読み出したがゆえ、自然に皆を代表して最後まで読むことになったギャズが、読み終わるなりジャクソンに視線を向けた。元海兵隊員ではあったが、しかしジャクソンがこの命令が何であるのかなど、知る由も無い。 「なんかやっちまったんじゃないか、その141とかいう部隊は。例えば、ありがちだが……」 「知っちゃいけないものを知った?」 それだ、とヴィータの言葉に相槌を打つのはグリッグだ。しかし141は地球の西側諸国でも精鋭ばかりを引き抜いた最強の特殊部隊ということが判明している。いったい彼らに何があったのだろう。 「そもそもシャドー・カンパニーとは何だ、米軍か?」 「いや、違うな。確かPMCsだ」 シグナムの発した疑問の声に応えたジャクソンは、記憶の中からシャドー・カンパニーという企業についての情報を引き出す。 そもそもPMCsとは、近年になって急速に拡大していく民間軍事会社のことだ。新しい傭兵のスタイルとも言うべき市場で、依頼に応じて自社に所属する戦闘員を派遣し、任務を実行させる。国軍の派遣は国際社会からの批判を招きやすく、さらに冷戦終結や経済情勢悪化に伴う軍の縮小傾向も手伝って、あくまでも民間から派遣されてきた者という体裁で軍の任務を肩代わりしている。 シャドー・カンパニーとは米国内にて創業したPMCsであり、特に元米軍兵士が多く所属することで有名な企業だった。 「民間軍事会社に、軍の特殊部隊の捕縛か殺害の命令……」 「おかしいはずだ。この命令が141に追われているマカロフが発したものならまだ分かるが、発信場所はアメリカの国防総省だ……エイミィ、偽装の可能性は」 「ゼロとは言い切れないけど。でも『アースラ』の通信傍受や発信場所特定を騙せるなんて、私がいっぱいいても無理」 さり気に自画自賛するオペレーターの意見の一番大事な部分だけ聞き取り、クロノが「そういうことだ」と皆に視線を向ける。ひとまず、機動六課準備室の面子全員がこの異常事態を認識した。 「発信場所は分かったとして……発信者は具体的には分からない?」 「ちょっと待って。ここだけ暗号レベルが段違いで……あぁもう、手こずらせるなぁ」 フェイトの問いかけに、エイミィは苦々しい表情を隠しもせずにキーボードに向かう。指がキーを高速で叩くが、通信文に表示されるであろう発信者の部分は暗号化されたままで、読み取ることが出来ない。 ちょうどその時、別のオペレーターが『アースラ』宛てに通信が届いたという報告を知らせてきた。本来の艦長席に収まったクロノがこちらの端末に回してくれるよう頼む。 通信の送り主は、『ミスターR&ミスR』とあった――あぁ、と突然、クロノ以外の機動六課準備室の面子全員が納得した様子を見せて、『アースラ』艦長は当惑する。彼はまだミスターRとミスRが何者なのか、知らせれていなかった。 「何だ、みんな知っているのか」 「ミスターの方もミスの方も知ってるはずだぜ。特にミスRはお前のことをよくご存知だ」 何を言っているのか分からない、といった表情のミスRの息子を放っておいて、ジャクソンを含め全員が通信文を読んだ。 読んでいくうちに、自分たちの表情が息を呑むものになっていくことを、誰も気付かなかった。もたらされた情報は、それほどにまで重大にして重要なものだった。 ミスターRとミスRからの通信。そこには、この事件の首謀者の名が二名記されていた。片方はウラジミール・マカロフ。もう片方は―― SIDE Task Force141 六日目 1622 アフガニスタン カンダハル南西160マイル 第四三七廃機場 ジョン・"ソープ"・マクダヴィッシュ大尉 銃撃戦を掻い潜り、必要なら容赦なく弾を叩き込み、超国家主義者たちとシェパードの私兵の両方に追われながら、ソープは滑走路まであと直線距離で二百メートルの位置にまで迫っていた。 打ち捨てられて胴体だけになった輸送機か旅客機か、とにかく航空機の残骸の中を突き進んで近道を図る。滑走路までスクラップの山を一つ乗り越えれば、というところに来て、頭上を重い爆音が駆け抜けていった。来た、ニコライのC-130だ。 国籍標識のない翼を見て敵と判断されたのか、地上からは激しく対空砲火が撃ち上げられる。時折白煙が昇り、スレスレのところでC-130は回避。ミサイルにも狙われているらしい。 マカロフの手下が撃ったのか、シェパードが撃ったものなのかは判別出来ない。いずれにしても、このままではニコライが危険だ。 ≪プライス、上空に到着した。どうやら地面は制圧できなかったようだな、熱烈に歓迎されてる。ソビエト時代のアフガン侵攻並みだ≫ 通信機に飛び込むC-130のロシア語訛りな声は、あくまで余裕そうではあった。 その余裕とは対照的に、C-130が尾部から大量のフレアをばら撒く。赤外線誘導のミサイルを幻惑させる赤い火の玉は、まるで天使の羽のようですらあった。そう、まさに天使。天使はソープとプライスを助けに来たのだ。 天使とダンスと行きたいところだったが、残骸の中からソープは、ちょうど左右に分かれる形で超国家主義者たちとシェパードの私兵部隊が銃撃戦を開始するのを目撃した。こいつらを排除せねば、先には進めまい。 ≪ニコライ、つべこべ言わずに機を下ろせ! ソープ、こっちは車を見つけた! そっちに向かう!≫ 「了解、了解! 早めに来てくれ!」 プライスの怒鳴り声が通信機に繋がったイヤホンに飛び込み、負けじと怒鳴り返す。 M14EBRを構え、スコープに捉えた敵を――超国家主義者もシェパードの私兵も、今はどちらも敵だ――撃つ。あらぬ方向から撃たれた敵兵はいともたやすく倒れていくが、そのうちこの狙撃は今目の前で対峙している敵ではなく、第三者によるものだと気付く。たちまち位置がバレて、ソープが身を隠す航空機の残骸に銃撃が集中し始めた。 くそ、と吐き捨ててM14EBRを乱射。まだ予備のマガジンはチェストリグのポーチに入ってはいたが、いちいち狙撃などしていられない。今入っているマガジンの弾を撃ち尽くすと、即座に背中の方に回していたMP5Kに切り替えた。狙撃仕様のM14に比べれば、取り回しははるかに良い。 思い切って残骸から飛び出し、まさかギリースーツを着た兵士が飛び出てくるとは考えもしなかったマカロフの手下一行に向けて、引き金を引く。パラララ、と軽い銃声と共に薬莢が弾け飛び、放たれた弾丸が超国家主義者たちに降り注ぐ。何名かが悲鳴を上げて倒れ、残った敵も怯んだ。 今のうちに走り抜けてしまえ――その目論見が、即座に潰えようとした。ヒュ、と何かが眼前を横切り、すんでのところでかわす。黒尽くめの兵士が、ソープの前にナイフ片手に立ち塞がっていた。今度はシェパードの私兵だ。MP5Kの銃口を突きつけようとして、銃身が敵の右足で払いのけられた。引き金を引く指は動作中止の命令を聞かず、あらぬ方向に向かって銃弾を乱射。一発も目の前の敵に当たることなく、MP5Kは息絶えた。 「っ!」 「このっ」 振り下ろされるナイフを持つ敵の右腕を、強引に左手で掴んで押し止める。そのまま右手を敵兵の左足に伸ばし、レッグホルスターに収まっていた拳銃を引き抜き、奪い取った。銃口を零距離で押し付け、一発撃つ。ウッ、と短い断末魔が上がり、ソープが左手で掴む敵の右腕から力が抜けた。 生死の確認をする間もなく、彼は走った。奪った拳銃はファイブセブンだった。そのまま頂いていく。 航空機の残骸の最中を駆け抜け、道路に出た。その中央で、ジープが一両エンジンを回したまま止まっている。後部座席で銃を乱射しているブッシュハットの男に、見覚えはあった。 プライスだ。運転手はオーストラリアSAS出身のロック伍長。精鋭部隊Task Fore141は、ソープを外せばもう彼らだけになっていた。 「ソープ、乗れ!」 言われるまでもない。周囲は敵だらけだ。超国家主義者たちのものか、シェパードの私兵部隊のものか、どちらが撃ったのか分からない銃弾の雨の中を突っ走り、ソープはジープの助手席に乗った。 ロックからアサルトライフルのACRを受け取り、プライスと共に見える敵に向かって弾をばら撒く。ジープが発進したのはそれとほとんど同時だった。 ≪プライス、あと一分で離陸する。乗りたいなら急げ!≫ 「分かってる! ロック、飛ばせ!」 運転手も必死の様子でハンドルを握り、アクセルを踏んでいた。ジープは砂煙を上げながら加速する。 無論、敵も必死なのは同じことだ。滑走路に下りたC-130と、ソープたちが目指す先が滑走路であるという情報が一致したからには、全力で脱出を阻止してくる。現に今、ジープの前には荷台に兵士を乗せたトラックが続々と集まっていた。 ありったけの銃弾を叩き込み、敵兵たちの妨害を切り抜ける。トラックで併走してくる敵の車両には、運転席に弾を撃ち込んだ。 ガッ、とジープの車体に衝撃があった。振り向けば、敵がトラックを横付けしてきている。荷台にいる敵兵と眼が合う距離だった。銃口が突きつけられる。ソープはACRの銃口を負けじと突きつけ返し、これにプライスも加わった。交差する銃弾。被弾しないのが不思議なほどの距離で、お互いに一斉に撃ち合う。マガジンの弾が尽きたところで、ソープは先ほど敵から奪ったファイブセブンを持ち出し、荷台ではなく、トラックのタイヤに全弾を叩き込んだ。 銃撃されたタイヤはたちまちバーストし、それにも関わらず運転手がアクセルを踏み続けたことで、車体が大きくひっくり返った。荷台の兵士たちが宙に放り投げられて、視界の向こうへと吹き飛んでいった。 ジープは滑走路に辿り着き、一度横断して強引にブレーキをかけて止まった。目の前には、今まさにすでに離陸滑走に入りつつあったC-130の姿が。これでも一分はとうに過ぎていた。ニコライはギリギリまで待ってくれていたのだ。 「ニコライ、ランプを下ろせ! 直接乗り込む!」 プライスの指示に、ニコライからの応答はなかった。代わって、C-130のカーゴドアが開いた。滑走しながらのため、アスファルトの地面に火花が散っている。その様はニコライの早く乗れ、という意思を表しているかのようだった。 無茶苦茶だ、と運転手がぼやき、しかしアクセルを踏んで再びジープを発進させる。プライスの言った通り、C-130のカーゴに直接乗り込むのだ。 と、その時、滑走路の向こうから複数のトラックが姿を現した。しつこい敵は、諦めようとしなかった。再びジープに体当たりする勢いで近付き、横付けして銃撃してくる。プライスが応戦して黙らせるが、放たれた一発の銃弾が、ジープの運転手の胸を貫いた。 血しぶきが飛び、ソープは顔面に血を浴びる。助け起こそうとしたが、運転手はすでに事切れていた。 「ロックがやられた! ソープ、ハンドルを握れ! アクセルはまだ踏まれている!」 そうだ、とプライスの声で彼は気付いた。運転手はついに死んだが、彼の意思はまだ生きていた。死してなおベタ踏みされたアクセルがそれだ。ハンドルを横から手に取り、巧みに操ってジープの進路をC-130の開かれたカーゴに向ける。 最後に強引に割り込もうとした敵のトラックを弾き飛ばして、二人を乗せたジープはついにC-130へと飛び込んだ。 「それで、どうするんだ。これから」 空へと逃れたC-130の機内で、ソープはプライスに問う。 もはや、Task Force141は彼ら二人だけになった。その指揮官たるシェパード将軍は裏切りにより彼らの敵となった。あまりにも強大な敵だ。彼は今、米軍全体の指揮権すら得ている。 唯一、"ホテル・ブラボー"なる場所にいるということだけは分かったが、行ってどうする。こちらには銃が一丁、あちらには千丁だ。まともに挑んで勝ち目があるとは思えない。 「決まっているだろう。奴を倒す」 にも関わらず、プライスの眼は死んでいなかった。復讐の炎で胸を焦がしている訳でも、自暴自棄に至っている訳でもない。そうすることが、今の自分の成すべきことだと信じて疑わない眼だった。 強いな、じいさんは――素直に、ソープはこの屈強な老兵を羨ましく思う。自分は部下を失った。彼のように、自分が成すべきことをただ成すという強い信念は持てない。せめてどうか一人、一人でも良いから誰かが生き残ってくれていれば。 「二人とも、通信が入っているぞ。懐かしい奴からだ」 操縦を部下に代わってもらっていたニコライが、カーゴにいた二人を通信士の座席に呼んだ。言われるがまま、プライスは何でもないようにスッと、ソープは重い腰を上げるようにして立ち上がった。 ヘッドホンを受け取って装着し、そこでソープはニコライの言う「懐かしい奴らだ」という言葉の意味を理解した。 ≪こちら次元航行艦『アースラ』のクロノ・ハラオウンだ。Task Force141、聞こえるか≫ 「……ああ、聞こえている。クロノか? ソープだ」 通信機の放つ電波の向こうで、一瞬の沈黙が舞い降りる。驚いているのだろう。ソープ自身も、驚いていた。何故、彼が通信を今ここで寄越してきた。 ようやく、二つの線は絡み合う。Task Force141、機動六課準備室という二つの線が。 線の目指す場所は、どちらも一致していた。 戻る 次へ
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「スバルー、どこ行ったのー? スバルー?」 休日の日の空港は、少女の妹を捜し求める声を簡単に打ち消してしまう。大人たちはほとんど声に気付かず、あるいは気付いても所詮は他人事、せいぜいが心配そうな視線を送る程度だった。 もう、どこ行っちゃったんだろう。少しばかり疲れた表情を浮かべて、彼女は壁にもたれかかった。かれこれ一時間探し回っているが、はぐれた妹は見つからない。 見惚れてしまうような紫色の、女の子らしくリボンで結った髪を右手で掻き分け、視線は周囲を探ってみる。ひとまず目についたのは、空港の総合案内所だった。迷子の情報も、ひょっとしたら取 り扱っているかもしれない。 「あの、すいません」 「はい、何でしょう?」 案内を務める受付嬢は、子供である彼女にも変わらず柔らかい笑みで応えてくれた。ひょっとしたら営業スマイルの可能性も否定できないが、今の少女にそこまで考える余裕はないし、そもそも普 段であっても疑うような真似はしないだろう。 「私、妹を探してるんです。名前は、スバル・ナカジマって言って……」 「あら、迷子? 大変、すぐ探してあげるね」 どうやら受付嬢の笑みは、本物だったらしい。女の子の申し出を真摯な表情で受け止め、服装や身長、どこではぐれたのかを少女に問う。一通りの質問を終えて、専用の端末に指を走らせ、データ を入力する。少女にはこの受付嬢が何をしているのか分からなかったが、おそらくコンピューターで妹を探してくれているに違いないと考えた。 不意に、受付嬢の指が止まる。そうだ、忘れてたわと端末から女の子に視線を戻し、聞いておくべきことを彼女に問いかける。 「ごめんなさい、あなたのお名前を教えてくれる? 放送でスバルちゃんを呼んでみるから必要なの」 「あ、はい。ギンガです、ギンガ・ナカジマ」 ギンガ、と名乗った少女の答えを聞いて、受付嬢はありがとう、と礼を告げる。程なくして、空港全体に迷子の知らせを告げる放送が鳴り響いた。同時に心優しい受付嬢はローカル回線を通じ、迷 子の特徴を各部署に連絡し、見かけたらこちらに一報して保護して欲しいとも言ってくれた。 「もう大丈夫、すぐ見つかるから。しばらく近くで待っててくれる? 妹が見つかったら呼ぶね」 「は、はい。ありがとうございます!」 まっすぐなお礼の言葉に、彼女はニコリと笑って応えてくれた。言われるがまま、ギンガは案内所を少し離れ、適当に近場にあったベンチに腰を下ろす。 とは言え、不安はなおも胸の中を覆ったままだ。あのお姉さんを信用していない訳ではないが、もし誘拐などされていたら、と思考は余計な想像をしてしまう。そんなことない、とすぐ否定に入る も、やはり気持ちは変わらなかった。 ハァ、と少しため息をついたところで、ベンチから立ち上がる。どうにも、一箇所にじっとしていられなかった。近くを歩き回る程度ならいいだろうと思い、ギンガは歩き出す。ひょっとしたら案 外、すぐ近くにいるかもしれないと思った。父が言っていたのだ、「灯台下暗し」と。 辺りに視線を漂わせながら進んでいくと、前を見た時突然、視界を黒いものが埋め尽くしていた。直後に衝撃が走り、キャッとたまらず悲鳴を上げてしまう。ひっくり返る身体、思い切り尻餅をつ いてしまう。誰かとぶつかったのだ。 「イタタ……あ、ご、ごめんなさい」 地面に打ち付けたお尻をさすりながら、それでも育ちの良さは彼女を反射的に謝らせてしまう。前をよく見ていなかったのは自分なのだ。謝るのは当然のことと、ギンガは考えていた。 ――しかし、顔を上げた先に見えたのは、言い知れない恐怖だった。ぶつかったと思しき黒いスーツの男は、こちらを一瞥しただけで何も言わず、立ち去っていく。その、一瞥した瞬間に垣間見え た男の眼に、少女は恐怖を覚えた。何も感じていない無感情な眼、まるで鮫のようだった。石ころでも踏んだ程度にしか、こちらの存在を認識していなかったのかもしれない。別段、踏み殺しても 何の躊躇いも後悔も見せないほどに。 突然の恐怖に固まっていたギンガに、手を差し伸べたのは同じ黒いスーツの男だった。だが、こちらはまだ若い。がっしりした体格はいかにもスーツが窮屈そうだったが、あの鮫のような男よりは はるかにずっと人間らしさを持っていた。でなければ「大丈夫?」と声をかけてくるはずがない。 「君、君。大丈夫かい?」 「あ……は、はい、大丈夫です」 「そうか、よかった――すまない、ぶつかったのは俺の友人なんだ。後でちゃんと言っておくよ」 若い男は、親切だった。手を差し出しギンガが立ち上がるのを手伝ってくれたばかりか、服をパッパッと叩いて埃を取り除いてくれた。大きな荷物を抱えていたにも関わらず。一通りギンガの無事 を確認したところで、男は先ほど彼女とぶつかった彼曰く『友人』を追いかけ、立ち去ろうとする。 「あ、あの、すいません」 その背中を、彼女は呼び止めた。なんだい、と男は振り返る。決して嫌そうな表情は見せなかったが、急いでいるようではあった。 「わたし、妹を探してるんです。髪は青で、眼は緑。スカートで、ポーチを持ってるんですけど――」 「迷子かい? …いや、悪いが見てないな」 そうですか、と落胆した表情は隠し切れず、ギンガは言う。男はそのまま、先に行った友人の後を追って進んでいく。 しょうがないか、もう少し待ってみよう。渋々先ほど座っていたベンチに戻った彼女は、そこでふと気付く。あの男たちが進んでいった方向は、『関係者以外立ち入り禁止』と看板が立てられてい た。にも関わらず進んでいったと言うことは、もしかして空港のスタッフだったのだろうか。 回る思考が導き出した予想は、しかしそれで終わる。そんなことより、今のギンガには妹の方が心配だった。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第4話 No Russian / 自分自身は欺けない SIDE C.I.A 三日目 0840 ミッドチルダ ミッドチルダ臨海空港 ジョセフ・アレン上等兵=アレクセイ・ボロディン ――彼らは任務を果たしたようだ。ACSモジュールの回収に成功した。 まるで幻聴のように、脳裏に響く声があった。 それは出発前、将軍から下された命令を受け取った時、彼自身の口から語られたもの。 ――君には、これ以上の成果を期待したい。 無茶を言う。率直な感想は、胸の中で呟くしかない。これから自分が臨む任務は、単なる敵地への潜入とは訳が違うのだ。 無論、あの将軍はだからこそ自分に「期待する」と言ったに違いない。困難をやり遂げてもらうために、わざわざ自ら最前線に出向き、自分好みの兵士をその眼で見て引き抜いた。 しかしこれは、とアレンは口にする。こんなものが、本当に任務といえるのか。 ――昨日までの君はもはや過去のものだ。今や戦争は何処にでも起こり得る。犠牲者もまた然り。 ――マカロフは自分のための戦争を繰り返してきた。拷問、人身売買、虐殺、何も躊躇はしない。 ――君を潜り込ませるために、我々は相応の代価を支払った。君自身も、何かを失う羽目になる。 ――だが、アレン上等兵。長い眼で見ろ、君はそれ以上に大勢の人命を救うことになるだろう。 本当だろうか。将軍の言葉に、アレンは疑問を持たざるを得ない。疑問というより、否定に近かったかもしれないが。 兵士は、与えられた任務を遂行することに全力を尽くす。何をどうすべきか、などは兵士が考えるべきことではない。本来それは、軍においては参謀であり将軍であり、もっと大きく見るなら国家 元首が受け持つことだ。政治体制が民主主義であれば、考えるべきは国民と言うことになる。 だが、命令書を受け取ったアレンは、自分の立場も忘れてしまうくらいに激しい感情を覚えた。すなわち、怒りだ。こんな馬鹿な話があるか、狂ってやがる。それも、俺にこの任務をやれと言う。 かろうじて顔には出さない程度に自身の感情を押さえ込みはしたが、それでもきっと見抜かれていたのだろう。肩に手を置き、彼に狂気の命令を下したあの将軍は、静かに告げる。 ――狂気に立ち向かうには、自らも狂気を持つしかない。冷酷には冷酷を、死には死を。 立ち入り禁止区画内にあるエレベーターまでの道程は、実に簡単なものだった。 立ち塞がっていたのは関係者以外の進入を禁ずると言う旨が書かれた看板程度であり、誰も彼らを止めようとはしなかった。時空管理局の中心世界と言うだけあって治安の良さは高い領域にあるよ うだが、それがかえって仇となった。誰もが、テロなど起こるはずがないという認識の下に暮らしていた。 途中で監視カメラに出くわしたりもしたが、なんてこともない。通報を受けた警備員がここは立ち入り禁止ですよ、と告げに手ぶらで、もしくはせいぜい警棒を手に現れたくらいだ。道に迷った、 と適当な嘘ではぐらかし、道案内させたところで監視カメラの死角に連れ込み、口封じ。手っ取り早く、サイレンサーを装着した拳銃で射殺した。 エレベーターにまで到達したところで、アレンとその"友人"たちは抱えてきた荷物の中身を開封した。銃のマガジンが幾つも入るタクティカル・ベストに、手榴弾、ナイフ、そしてM240軽機関銃に M4A1のM203グレネードランチャー装備など各種銃器。 "友人"たちはみんなロシア人であるはずだが、持ち込んだ銃は全て米国製だ。超国家主義者たちはもともと、祖国への狂信的な愛国心は持っていても武器に関してはそこそこに無頓着だと聞いた。 リーダーが祖国再興にこだわらない人物に代わってからは、それがますます拍車をかけたことになる。 しかし、妙な気分だった。アレンは生まれも育ちもアメリカだが、今は『アレクセイ・ボロディン』と言う名で彼らの下に加わっている。ロシア人として。要するに、スパイだ。超国家主義者たち の内側に溶け込み、共にテロ活動を行うことで信頼を得て、外からでは決して得られない情報を入手するために。 ロシア製の銃火器を不自然なく扱えるよう訓練は受けたが、実際に持たされたのは使い慣れたアメリカ製。なるほど、妙な気分とはつまりここから来たのだろう。 ――否。彼が抱える"妙な気分"とは、決して銃に関する事柄だけではないはずだ。 スーツの上にタクティカル・ベストを羽織り、M240に弾丸を装填。M4A1を肩に下げて武装完了したアレンと"友人"たちは、エレベーターに乗り込んだ。スイッチを押して、一階の手荷物検査場前へ。 今日は世間的には休日であるから、ミッドチルダのどこの空港も旅行客で賑わっているはずだ。この臨海空港とて、例外ではない。 「C нами бог」 不意に、エレベーター内でロシア語が響いた。アレンは視線を上げ、声を発した"友人"たちの一人を見る。 「Remember.No Russian(忘れるな、ロシア語は禁止だ)」 ロシア語を発した男の口から次に出たのは、流暢な英語だった。アメリカ人のアレンが聞いても判別するのはおそらく不可能な、完璧な発音。まるで翻訳機の如く、感情が抑制されたような声でも あったが――感情。男の眼と同じだった。鮫のように無感情な眼が、同行する仲間たちに指示を徹底させるようにして視線を送る。皆、黙って頷いた。 最初に、奴はロシア語でなんと言った? エレベーターが一階に降りるまでのわずかな時間、アレンは思考を走らせる。大学時代、アメリカ以外の国をもっと知りたいと思った彼は語学の道を選び、 ロシア語を覚えた。皮肉にも学んだ知識はこのようなことに生かす羽目になったが――両親が、自分を大学に行かせるために借金をしているのを知ったのは卒業間近。彼は金を稼ぐために軍に入っ た――そのデータベースの中に、男の呟いた言葉はあった。意味は、"神と共に在らんことを"のはず。 馬鹿な、神だと。こんな行いを、いったいどこの神が許してくれると言うのか。それとも自分が神にでもなったつもりか、マカロフは。 ――そう、この鮫のように無感情な眼を持つ男こそ、超国家主義者たちの新たなリーダー、マカロフだ。任務は彼に近付き、信頼を得ること。そのためにアレンは身分を偽り人を欺き、ここにいる。 チン、とエレベーターのベルが鳴った。扉が開かれ、マカロフたちは歩み出る。一階の手荷物検査場は、予想通り旅行客で人だかりが出来ていた。銃口を向けて引き金を引けば、照準を合わせずと も地獄絵図が即座に一枚完成する。 マカロフの狙いは、まさしくその地獄絵図を作ることにあった。この魔法文明が栄える平和な世界、ミッドチルダにて。 何も知らない人々は、エレベーターから降りてきた彼らに最初は気付かなかった。何名かがおや、と振り返り、ミッドチルダでは映画やゲームの中でしかまず見ることのない銃火器で武装している 姿を見出し、ざわざわと騒ぎ始める。 もし、人々に過ちがあるとすれば――荷物を捨ててでも、即座に逃げだなかったことだろう。ロシア人たちの無感情な眼の奥にあったのは、殺意と呼ぶことすら生ぬるいほどの冷たく、そして残酷 な思考。 銃口が上がり、人々に突きつけられる。それでも彼らは動かなかった。戸惑い、怯え、しかし目の前の光景にどこか非現実的なものを感じ、それが生存本能をも鈍らせた。 次の瞬間、銃声と、それより数瞬遅れる形で発生した悲鳴が、臨海空港に響き渡った。 SIDE U.S.M.C 三日目 時刻 0932 ミッドチルダ 首都クラナガン ポール・ジャクソン 米海兵隊曹長 在ミッドチルダ米軍連絡官 「ごめんなぁ、シャマルは今ちょっと買い物行っとるんよ」 紛争世界から自分のデスクがあるミッドチルダに帰還したジャクソンは、八神はやての自宅を訪れていた。先日、この家の家人であるシャマルから頂いた弁当箱を返すためだ。ついでに愛する彼女 とささやかだが楽しいお喋りを味わう魂胆だったのだが、間が悪かったようだ。 家の主であるはやては、まだ一〇代の後半に達したか達していないかと言う年齢の少女だ。栗毛色の髪と整った顔立ち、独特のイントネーションは可愛らしさを持っているが、これでも数多の次元 世界の平和を守る時空管理局の一員でもある。階級も三佐、ジャクソンの所属する米海兵隊で言うところの少佐に値し、立場で言うなら彼女は上官と言うことになる。 「まぁ、すぐ戻ると思うから。コーヒーでも飲んでゆっくりしとく?」 「悪いな、ありがとう。君のとこには世話になりっぱなしだな、まったく」 大げさやねぇ、コーヒー一杯でとはやてはカラカラ笑い、海兵隊員をリビングにまで案内した。 階級に関わらず、こうしたやり取りが二人の間に成り立っているのは生まれや組織を超えた、長年の付き合いがあるからだ。戦場で死にかけたジャクソンを、家人の一人であるヴィータが助けて彼 を八神家にまで連れ込み、皆が手厚い看護を施した。以来、ジャクソンは八神家に強い恩義を感じ、八神家もまた彼を受け入れるようになっていった。お互い住居がミッドチルダに変わってからは 交流はさらに深まり、今日に至っている。 「しかし、今日はどうしたんだ。こんな時間帯に一人でいるなんて、珍しいじゃないか」 「昨日は夜遅くまで、計画立案を煮詰めとってね。ほんでも目処が立ったから、今日はお休み頂いたんや」 「へぇ」 他愛もないお喋りに興じて、お互いコーヒーを飲む。はやての話によれば、シグナムは彼女の言う計画とやらのために協力するため、本局の武装隊と調整業務。ヴィータはデバイスの調整整備のた め、技術開発部に足を運んで今日は一日帰ってこないと言う。シャマルは、玄関で最初に会った時に話した通り、生活必需品の買出し中。 「狼はどうした、守護獣は」 「あ、居るよ。おーい、ザフィーラ」 はやてが呼ぶと、すぐに奥から青い毛並みをした狼が現れた。盾の守護獣ザフィーラ、ジャクソンとは同じ男同士でなんとなくウマが合う。 「ジャクソン、来ていたのか」 「シャマルに弁当箱を返しにな。お前、ちゃんと食べてるか? 少し痩せたように見えるが」 「引き締まったと言え。ここ最近は、特に鍛錬を重ねているのだ」 そりゃ頼もしい限りだな、と海兵隊員は笑う。実際頼もしいでザフィーラは、とは家の主の談。 しかし、とジャクソンは振り返る。そういえば、以前ヴィータと会った時も「最近訓練を煮詰めててな」と話されたような気がする。シグナムも、顔を会わせれば「少し付き合わないか」と愛用の デバイスをちらつかせて来た。その時は丁重にお断りしつつも、何だか最近八神家は一家揃って忙しそうにしているように見えたのだ。 「なぁ、はやて。その、お前さんが煮詰めていたと言う計画って、いったい何だ?」 「え? どしたん、急に」 「いや、何だか最近、妙に八神家は忙しそうだからな。何か関係しているのかと思って」 少しばかり間を置いて、「あー…」とはやては答えるべきか否か、迷ったような返事をした。関係があるのは間違いないようだが、話していいかどうかとなると別問題なのだろう。 ――計画? そういえばこちらもつい最近、誰かの口から何かの計画が管理局内でも進行しているとか耳にした。誰からだろう。 記憶の底に探りを入れて、答えに到達したのと、ザフィーラが会話に入ってきたのはほぼ同時の出来事だった。 「ジャクソン。クロノ執務官から、何も聞いてないか?」 「ああ、ちょうど思い出したところだ。昨日、アイツから聞いたんだ。管理局内で、ある部隊を新設しようって話を。計画にはクロノも関わってて、しかしメインの立案者は他にいると。俺がよく 知る人物だ、とかも言っていたな」 「……あ、なんや。そこまで聞いとるん?」 はやては意外そうな顔をする。その表情を見て、ジャクソンは頭の中でパズルのピースが一つ、組み合ったような気がした。なるほど、立案者とはつまり―― 「っと、すまない。呼び出しだ」 「あ、うちも……なんやろ、偶然にしては嫌な予感のするタイミングやな。米軍(そっち)からも管理局(うち)からもとか」 そうだな、と彼は相槌を打った。ポケットから携帯電話を取り出すと、勤め先の在ミッドチルダ米軍司令部のオフィスからだった。はやても文字通り魔法の通信回線を開き、目の前に半透明の通信 用ディスプレイを展開させる。 一瞬遅れて、つけっ放しにしていたテレビの画面の中でやっていた番組が切り替わり、臨時ニュースが始まっていたことなど知る由もない。否、知る必要すらなかった。 『臨時ニュースを申し上げます、臨時ニュースを申し上げます。一時間ほど前、ミッドチルダ臨海空港にて複数の銃声があり、多数の死傷者が出ている模様です。詳しいことは分かっていませんが テロではないかと言う見方が強く、管理局がただちに部隊を移動させているようです――』 SIDE C.I.A 三日目 0905 ミッドチルダ ミッドチルダ臨海空港 ジョセフ・アレン上等兵=アレクセイ・ボロディン 何をやっているんだ、俺は。 何をやっているんだ、俺は。 何をやっているんだ、俺は。 何をやっているんだ、俺は。 何をやっているんだ、俺は。 何をやっているんだ、俺は。 何度も何度も、自問自答の声が脳裏で響き渡る。いや、自問"自答"ではない。自分は、自分のした質問に答えられていない。答える前に、銃声と悲鳴が思考を掻き乱し、消し去ってしまう。 空港の中は、すでに見渡す限りの死体の山が築かれていた。大人も、老人も、子供も、男も、女も、老若男女は一切関係なく、全ての人が殺戮の対象に晒されていた。 果敢に抵抗を試みる者も、逃げ惑う者も、手を上げて命乞いをする者も、関係なかった。マカロフを初めとする超国家主義者たちは、視界に人が入れば容赦なく鉛弾を撃ち込んだ。 俺は――大量殺戮の現場を、アレンはただ指を咥えて見過ごすことすら許されない。そんなことをすれば、何故撃たないのかと怪しまれるからだ――何をやっているんだ。俺は。 自身が構えるM240の銃身は、すでに何十発も連射したことで熱を持っていた。カチンッと機械音が鳴り、まるで銃がもういいだろう、やめようと訴えかけるようにして弾切れを伝えてくる。 いいや、やめようと言っているのは自分の良心だ。にも関わらず、アレンは息絶えたM240に新たな弾丸を込める。カバーを開き、薬室にベルトで繋がった七.六二ミリ弾を入れて、閉じた。息を吹 き返した軽機関銃の銃声は、もうやめてくれと叫んでいるようにすら聞こえた。 せめてもの慰めは、彼は明確に生きている人間を狙っては発砲していないという事実だ。すでにマカロフたちの凶弾に倒れ、息絶えた人々の骸に向けて弾をばら撒く。目の前で狙われている人がい ても、このテロリストたちに手出しすることは許されない。せいぜいが、早く逃げてくれと祈るくらいだ。自分の"死体撃ち"にしたところで、死んでも銃弾の雨に晒され傷ついていく者の気分を考 えれば、最悪と呼ぶほかない。 血と死体で埋まっていく地面、鼻を突く硝煙と血の匂い、耳をつんざく悲鳴と銃声。もう何人死んだだろうか。数えることも不可能なほどに増えていく死体は、どこに視線をやっても否応なしにア レンに事実を突きつけてくる。テロ行為に加担したと言う事実。止められる立場でありながら、任務のためと称して止めようとしない事実。誰も助けられないと言う事実。 くそ、と旨のうちで吐き捨てたところで、何かが変わる訳でもなかった。 ちょうどその時、ガラス越しに空港の外で、ヘリコプターが複数駆け抜けていくのが見えた。一瞬だったが、胴体に描かれた標識マークは時空管理局のものだった。通報を受けて、ようやく鎮圧の ための部隊が動き出してくれたのか。 「Let s go!」 前を行くマカロフが、前進速度を速めろと指示を下す。自らが生み出した地獄絵図を、この男は犬の糞でも見つけたような表情で見ていた。狂ってやがる、とアレンは聞こえないよう小さく呟いた。 「予定通りの時間だな――弾薬を確認しろ」 こんなくそったれの指示を、聞かねばならないのか。ただの兵士である彼は、しかし他になす術がない。良心によって胸をえぐられるような痛みを必死に堪えて、ベルト給弾方式のM240に弾薬を再 び装填。他の者と不本意極まりないコンビネーションで互いの死角をカバーし合いながら、彼らは前に進む。目指すは駐機場を抜けた先にある駐車場だ。 管理局の部隊は、当然こちらをテロリストとして鎮圧しに来るだろう。抵抗力が皆無の民間人や、貧弱な装備しか持たない空港の警備員たちと違って、本気で撃ってくるはずだ。"死体撃ち"で誤魔 化すような真似は、もう通用しないかもしれない。 逃げられないってのか、俺は――撃たねば、撃たれる。幾度も潜り抜けてきた戦場での鉄則が、こうも胸糞悪く絡み付いてくるのは初めてだった。 「この時をどれほど待ち侘びたか」 「お互いにな――管理局だ、始末しろ。ザカエフのために」 部下の言葉に応えて、マカロフは正面に現れた管理局の魔導師たちに向け、射撃を指示。自分自身もM4A1の銃口を向け、容赦なく五.五六ミリ弾を叩き込んでいく。 魔導師たちは、突然降り注いできた質量兵器の雨に、文字通り魔法の力でもって対抗した。二隊に分かれた彼らは、一隊が前に出て防御魔法を発動。魔法の壁で弾丸を弾き返しながら、残った一隊 が標準的なストレージデバイスを構えて、魔力弾による射撃を開始する。 交差する弾丸同士、しかしマカロフたちの放った銃弾は光の膜に弾かれる一方で、魔導師たちの放った青白い弾丸は何者にも妨害されず、テロリストたちに降り注いだ。無論、アレンにも例外なく。 身を掠める魔法の弾丸、こちらは遮蔽物に身を隠して凌ぐが精一杯。生命への危険が、彼に判断を迫る。撃つか、撃たれるか。 「――畜生め」 もし戻れたら、自分をこんな任務に就かせたあの将軍に、この銃弾を叩き込んでやる。何が「君はそれ以上に大勢の人命を救うことになるだろう」だ。俺は結果として本来の味方を、ティーダの戦 友たちを撃つ羽目になった。このツケは、あのふざけたシェパードの野郎の命で払ってもらう。そしたら次はマカロフだ。俺がコイツを殺す。それが、俺に出来る唯一の償いだ。 だから許せ――とは絶対に、彼は思わなかった。M240の銃口を、防御魔法を展開させる魔導師たちに向ける。引き金を引き、ありったけの七.六二ミリ弾を叩き込んだ。唸る銃声、照準の向こうで 光瞬くマズルフラッシュ。 普通に射撃したくらいでは、魔法の壁は撃ち破れなかっただろう。だが、M240は軽機関銃だ。毎分七五〇発と言う連射速度で、ただでさえストッピングパワーの高い七.六二ミリ弾を高初速で長い 時間放ち続けることが出来る。豪雨のような銃撃に晒された魔導師たちは前進を停止するも、なおも続く銃撃の乱打に魔法の壁が、文字通り『崩壊』してしまった。あっと彼らが声を上げた次の瞬 間、続く銃弾がバリアジャケットを貫通し、人体などと言う脆弱な物質をぶち抜き、肉を抉る。飛び散る血潮、救助を求める声すらもが更なる銃声にかき消されていった。 すまない、すまない、すまない。自分の銃撃で撃ち倒されていくアレンの思考は、決して敵を倒したと言う爽快感も得なければ、これで奴らも引かざるを得ないと言う安心感もない。ただ、脳裏を 駆け巡るのは懺悔の言葉。恨んでくれていい。俺は殺されても文句は言えないんだ。いや、いっそ殺してくれた方が、どれだけ楽なことか。 魔導師たちは後退を余儀なくされた。緊急出動だったが故、装備も人員もままならない状態で交戦したのもあったのかもしれない。ともかくも、彼らは退いていく。その背中に向けて、マカロフが M4A1の銃身の下に付属していたM203グレネードランチャーの砲口を向ける。 やめろ、と心の中で叫んだ。彼らはもう後退している、交戦の意思はないんだ。弾薬の無駄だと言って何とか止めさせよう。そう考えた頃には、ポンッと軽い発射音が響き、グレネードが引き下が っていく魔導師たちの中心で炸裂した。爆風と衝撃、破片が彼らを薙ぎ倒し、容赦なく命を奪っていく。 「行くぞ、前進する」 くそ――相変わらず、眉一つ動かさないこの冷酷な男の背中に向け、思わずアレンは銃口を上げようとしてしまった――くそ、くそ、くそ! どこまでコイツの後を追えばいいんだ。目標を達したと して、その時どれだけの人の命が失われているんだ。 俺は、何をやっているんだ。 「進路クリア、GO」 魔導師たちの撃退に成功した彼らは、なおも進む。 機械室に入り、ポンプと配電盤が並ぶ最中を駆け抜けていく途中、アレンは不意に、何かを耳にした。距離は、そう遠くない。すぐ近くと言ってもいいくらいだ。何の音だったのかは、定かではな かったが。 「敵か? それとも生き残りがいたか」 「俺が見てくる」 どうやらマカロフにも聞こえていたらしい。身を乗り出し、アレンは自ら偵察を申し出た。先に行ってくれ、戻ってこなかったら死んだと思えとも付け加えて。 実際は、もちろんこれ以上マカロフたちに誰も殺させないためだ。この機械室のどこかに、管理局の魔導師が潜伏しているにしても、民間人の生き残りが隠れているにしても、どちらであってもこ いつらは躊躇いなく撃つだろう。もしここで自分が行けば、自分で撃つか撃たないか判断できる。魔導師であったならば適当に撃って脅かし、殺さず追い返す。民間人だったなら、素直に見逃す。 マカロフは、一瞬怪訝そうな表情を見せた――ようやく垣間見えた、人間らしい顔だった――だが、すぐにまた無感情な眼に戻り、一言だけ言った。 「五分だ、アレン。一秒でも遅れれば置いていく」 「そうしてくれ、行ってくる」 ダッと、アレンは駆け出す。今日はずっと、殺してばかりだ。殺しに加担してばかりだ。戦争ですらない、ただのテロ行為に。誰か一人くらい、助けたっていいはずだ。 機械室の中は、パイプが入り乱れて複雑な構造をしていた。しかし、歩みを進めれば確かに聞こえる。最初は何の音か分からない、とにかく何かであるとしか認識できなかったが、少しずつ答えが 見えてきた。ヒック、ヒックと嗚咽を漏らすような、泣くのを必死に我慢する子供の声。たぶん女の子だろう。 ――女の子。そういえば、あの子は無事だろうか。記憶に甦る、行動を起こす直前にマカロフとぶつかった女の子。紫の髪を長く伸ばした可愛い子だった。妹を探している、とか言っていたが。 ふと、閉じかけられたまま放置されている扉が目に入った。左手でドアノブを握り、M240を右手だけで保持してゆっくりと室内へ入る。女の子の嗚咽と思しき声は、ここから聞こえていたのだ。 古びたロッカーに、埃が被った机。どうやら使われていない事務室か何かのようだが、ロッカーの影に、誰かが小さく丸まっているのが見えた。短い青の髪に、スカート。ポーチを肩から下げて、 頭を膝に当てて震えていた。ボーイッシュな感じがするが、おそらく女の子で違いあるまい。 「あ……」 女の子が、アレンの気配に気付いて顔を上げた。涙と鼻水でクシャクシャになった、普段なら元気いっぱいの、しかし今は恐怖に怯えるだけの緑の瞳が、さらに恐怖で上塗りされる。 「い、いや……や、やめて、うたないで、ころさないで……」 この子は――怯えきった状態で懇願する女の子に、何か引っかかるものを感じた彼は、ひとまず銃口を下ろした。敵意はないと言う意味だったが、そんなことで彼女が安心するはずもない。ただひ たすらに、「やめて……いや……たすけて、おねえちゃん」と助けを求めるだけだった。 お姉ちゃん、と言う単語を聞いて、アレンはようやく合点がいった。青の髪に緑の瞳、スカートにポーチ。おそらく、あの女の子が探していた妹だ。 助けよう。一人でもいいから。突き動かされるようにして、彼は女の子に駆け寄る。ヒッと少女の顔が歪むのもお構いなしに、細く軽いその身体を抱え上げると、すぐ隣にあった古いロッカーを乱 暴に開く。中に入っていたガラクタを蹴飛ばして外に出せば、子供一人くらいなら入れるスペースが出来上がった。 「いいかい、ここに隠れるんだ」 ほとんど強引に、女の子をロッカーの中に押し込んだ。彼女は、何が起きているのかさっぱりな様子で、しかし泣き止み、銃を持っているのに「隠れるんだ」と言い出したスーツの男を不思議そう な眼で見た。 「管理局か空港の警備の人が来るまで、外で何が起きようと絶対に出てきちゃ駄目だ。いいね?」 「え、え……?」 「返事は? かくれんぼは得意か?」 「あ……は、はい。あたし、かくれんぼ、すきです」 「いい子だ。それじゃあ、もう少しの我慢だから」 女の子は、最後まで訳が分からないようだった。だが、アレンの言ったことにはしっかり頷いた。それを見た彼は、すぐにロッカーの扉を閉めた。直前、女の子が不安げな眼差しを送っていたが自 分にはもう、どうしようもない。あとはひたすら、この子が生きてお姉ちゃんと無事再会出来ることを祈るばかりだ。 これでいい。駆け出し、マカロフたちの下へ急ぐ最中、アレンは胸の片隅でわずかばかりの満足感とも安心感とも言える、奇妙な暖かい感情が生まれるのを感じた。潜入任務なんて、もう御免だ。 俺は、自分自身を欺けない。そんな人間に敵と一体となって溶け込むことなど、不可能なのだ。偽りの仮面は、本人の心にさえも偽りを生むのだから。 マカロフの下には、時間内に戻ることが出来た。何だったんだ、と聞かれると、ねずみだ、と適当に嘘で誤魔化した。怪しまれている様子はない。何とかなったようだ。 脱出地点の屋内駐車場に辿り着くと、一台の救急車が待っていた。近付くと接近を察知したのか扉が開かれ、マカロフの部下たちが早く乗れと手招きしていた。 「成功だな。乗ってくれ――この襲撃は強烈なメッセージになるぞ、マカロフ」 「――いいや、違うな」 部下の手を借り、救急車に乗ったマカロフは意味深な言葉を口にする。だとすれば、この襲撃は他の意味があったのだろうか? 何であれ、その情報を手に入れるのが任務だ。マカロフが手を差し出してきて、アレンはその手を掴む。互いに人殺し、程度の差、主犯と結果的に加担した者と差はあれど、同じ虐殺者の手。しか し、まったく同じではない。片方はひたすらに殺す一方で、もう片方は、一つの命を救った。狂気と正気、同じ手でも相違点があった。 ――そして、相違点はもう一つある。それは、アレンはアメリカ人と言うことだ。 ぬっと、彼の視界に突如黒い銃身が現れた。ベレッタM92F、米軍の制式拳銃。銃口が向けられているのは、自分。 「これが本当のメッセージだ」 パンッと、乾いた銃声が響き渡る。身体にどっと衝撃があり、アレンは崩れるようにして地面に放り投げられた。 何だ、どうして――胸を撃たれた。ぽっかりと開いた穴からは、真っ赤な血がドクドクと溢れ出し、スーツを赤黒く染めていく――何故俺を撃った、マカロフ。 「アメリカ人は俺を欺けると思っていたらしい。もう少し適任な者を選ぶんだったな、自分も欺けるような奴を」 自分を欺けるような奴、だと。どういうことだ。薄れ行く意識の中で、必死に記憶を振り返る。どこだ、どこで、感付かれた。いったいどこで。 あ、と彼は気付いた。奴はさっき、俺をなんと呼んだ。偽名の"アレクセイ・ボロディン"ではなく――そうだ、奴は俺が見に行くと言った時、「五分だ、アレン」と。俺の本名を、知っていた。 "自分も欺ける奴"とはすなわち、そういうことなのだ。 最初から、全て奴には筒抜けだった。こんな馬鹿なことがあってたまるか。俺は任務のためと言って、結局その任務も果たせないまま―― 「く、そ……」 視界が、白く染まっていく。マカロフたちを乗せた救急車は、本当に怪我人を運んでいるようにサイレンを鳴らしながらどこかに走り去っていった。代わって現れたのは、再編成を終えて再びやっ て来た管理局の魔導師たち。 「この死体が見つかれば、ミッドチルダは戦争を望むだろう」 まるで幻聴のように、マカロフの声が耳に入る。聞こえるはずのない声、だが確かに彼は耳にした。畜生め、と胸のうちで吐き捨てる。 次の瞬間、白く染まっていく視界は暗転し、アレンの意識は深い闇の底へと姿を消していった。 ジョセフ・アレン 米陸軍上等兵/CIA工作員 状況:K.I.A(作戦中戦死) 戻る 次へ
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――記念すべき初任務が、盗みか。 ――人聞きの悪いこと言わんといてや。これは人質解放作戦やで? ――分かってる。しかし、いいのか? 俺たちは魔導師じゃない、兵隊だ。 ――しゃあないよ。管理局の施設だけあって、魔力に対する監視網は万全なんやから。 ――それで質量兵器投入か。お前さん、結構利用できるものは何でもするというか、その……。 ――"狸"って言いたいんやったら、褒め言葉やで? ――分かったよ、狸さん。ギャズ、グリッグ、準備いいか? ――グリッグだ、いつでもいいぜ。 ――こちらギャズ、配置に就いた。 ――了解。作戦を開始する。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第7話 The Hornet s Nest / 奪還作戦 第一段階 SIDE Unknown 四日目 2000 時空管理局 本局 第五港湾地区 ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 妙なところにまで来てしまったな、とかつての海兵隊員は思う。 野戦服にサイレンサー付きのM21狙撃銃を両手に持ち、接近戦に陥った場合に備えてMP5Kを肩に引っ掛けている彼の肩に、しかし以前なら縫い付けられていたはずの星条旗はなかった。今のポー ル・ジャクソンは、アメリカ合衆国の海兵隊員ではない。祖国が異世界からの侵略に蹂躙されているにも関わらず、彼はあえて帰国して戦うことを拒んだ。この戦争には、何かがある。単にアメリ カと管理局が全面戦争に陥るだけでは済まない、別の何かが。それを知るために、彼は国旗を一度捨てた。 普段なら停泊中の次元航行艦で賑わう管理局本局のこの港湾地区は、普段の様子が夢であるかのように静かなものだった。停泊中の艦船は大半が出払っており、補給物資を積み込む作業員や損傷 箇所の修理を行う工員の姿もない。積み上げられたコンテナや資材だけが不気味なまでに静かに佇む、無人地帯。いるのはジャクソンだけのようにも思えた。 否――物陰から物陰へ、飛び込むようにして移動する元海兵隊員は、まだ停泊している艦船が一隻いるのを見つけた。わざわざ双眼鏡で確認することもない。双胴の、SF映画に出てくるような次 元航行艦。確か、事前のブリーフィングによれば名を『アースラ』と言った。"彼女ら"にとって、思い入れのある艦なのだという。今回の目標は、あれだ。 しかし、とジャクソンはM21を構えて、狙撃スコープで『アースラ』に乗り込むまでの道を確認し、障害が立ち塞がっていることを確認する。艦の入り口には橋がかけられているが、当然見張りが 立っていた。人間ではない。地球への降下作戦で、本局は人員のほとんどをそちらに割いている。彼が見たのは、自動人形だった。 「ジャクソンより各員、情報通りだ。艦への入り口は一つ、見張りが立っている。傀儡兵、これも情報通り二足歩行の小型のやつだ。数は二、同時に倒す必要がある」 首元のマイクに向けて、同じように港湾地区に侵入しているであろう二人の仲間に通信を送る。その間にも、狙撃スコープから眼は放さない。橋の前に立ち塞がる自動人形――傀儡兵は、魔法で 動くロボットだ。本局の大半を掌握した地球への報復強行派は、人数不足をこうした無人兵器によって補っているのだろう。とは言え、ジャクソンたちにとってはかえって好都合だ。傀儡兵は大型 で火力のあるものだと手強いが、小型のものは並みの歩兵とそう変わらない。魔導師と違って魔法による防壁も展開できないので、こちらの銃弾は充分に通用するだろう。 「ジャクソン、ギャズだ。こちらも目標を確認した。グリッグ、俺が外したら頼む」 「外したら? どうしたイギリス人、自信なさげだな」 片耳にだけ装備したイヤホンからは、配置に就いている味方の声が電波に乗って飛び交うのが聞こえた。ギャズはイギリス陸軍特殊部隊『SAS』の出身であり、射撃の腕は問題ないはずだ。だから ジャクソンと同じ海兵隊出身のグリッグから心配されたのだが、深い意味があっての発言ではなかったようだ。 「万が一、さ。お前らアメ公と違って俺は慎重なんだ」 「慎重すぎても失敗するぜ――まぁいい。ジャクソン、お前の発砲が合図だ。やってくれ」 了解、と短く答えて、ジャクソンはM21を構え直した。腰を落とし、肩のくぼみにしっかりと銃床を当てる。右手はグリップを握り込み、左手は長い銃身を支える。引き金に指をかけて、覗き込ん だ狙撃スコープの照準を、こちらの存在に気付かないでいる傀儡兵の頭部に合わせる。人間と同じで、そこが彼らのメインコントロールユニットだと聞かされていた。難しく考える必要はない。 すっと息を吸い込み、呼吸を止めた。呼吸に合わせて上下左右に揺れていた照準が微動だにしなくなり、目標を正確に捉える――引き金を引く。発砲、サイレンサーが響き渡るはずだった銃声と 閃光を掻き消して、七.六二ミリ弾特有の反動のみが銃撃の証明を行う。狙撃スコープの向こうで、傀儡兵は突然見えない何かに殴られたようにしてひっくり返る。もう一機、と照準をずらせば、 残った一機も仲間と同じ運命を辿っていた。クリア、ひとまず障害は排除した。 M21狙撃銃を右肩に戻したジャクソンは立ち上がり、MP5Kを構えて狙撃ポイントを脱する。小さな黒い銃を抱えるようにして走り、『アースラ』の入り口に繋がる橋へ辿り着いた。先ほど撃ち倒 した傀儡兵は煙を上げて動かなくなっており、彼が近付いても反応しなかった。念のため銃口を向けながら、足で小突いて機能停止を確認。それが済むと、彼は右手でMP5Kを保持したまま、左手で 背後に親指を立ててみせた。途端に、どこからともなく先ほどの通信の相手が出てくる。グリッグ、ギャズの二名。数年前、地球の超国家主義者との戦いで共に死地を脱した戦友たちだ。 「よし、ここから先は発砲に注意だ。『アースラ』の乗組員たちが監禁されている」 「あのクロノって小僧もここにいるのか?」 「それをこれから確かめるのさ」 そうかい、と質問を送ったグリッグは納得してみせて、カービン銃のM4A1を構えて進む。背後の援護と見張りはギャズがG36Cを構えて行う。装備がバラバラなのは、準備の期間が短すぎて統一の 手間が取れなかったからだ。最悪、傀儡兵の持っている魔導杖を奪って戦うことになるかもしれない。魔力適性は三人とも皆無なので、槍か棍棒のようにする他ないが。 橋を渡って自動扉を抜けて、艦内へ。情報によれば、乗組員たちは全員が食堂に監禁されているとのことだ。通路を注意深く進み、三人の兵士たちは乗組員の解放に向かう。 港湾地区がそうであったように、艦内は異様なまでに静かだった。照明と空調は機能しているが、傀儡兵が巡回している様子もない。よほど襲撃の可能性は低いと思われていたのか、それとも罠 か。姿が見えない以上、彼らは進むしかなかった。 先頭を行くジャクソンが、足を止めた。左手をグーにして上げて、止まれの合図。壁に身を寄せて、目的地の食堂前にまで到達したことを知らせる。眼と身振り手振りだけで彼はグリッグとギャ ズに配置に就くよう促し、二人はそれに従う。食堂への扉は電子ロックされているようだが、物理的に解除する手段を彼らは用意していた。 ギャズが、粘土のような物体を持ち出し、扉に押し付ける。信管とコードをセットし、起爆準備完了。粘土はC4爆弾だった。どうせ押しても引いても開かないならば、爆破してしまえと言う魂胆 だった。とは言え、監禁されている乗組員たちまで吹き飛ばしてしまっては意味がない。量は控えめに、扉を爆破できるだけに留めてあった。 視線を交わす。アイ・コンタクトで意思疎通。突入準備が整った。ジャクソンはギャズにやれ、と合図。彼は頷き、起爆スイッチを押す。直後、轟音と共に弾け飛ぶ扉、舞い上がる煙。悲鳴が食 堂内で聞こえたので、やはりここで間違いない。爆破直後にも関わらず、ジャクソンとグリッグは煙を突っ切って突入する。 煙の向こうに、敵がいた。床や椅子の陰に伏せる乗組員たちの中で突っ立っている傀儡兵。ゆっくりと、スローモーションのような動きで手にした魔導杖を銃口のようにこちらに突きつけてくる ――動きは、生身の兵士たちの方が上だった。MP5Kの銃口を跳ね上げたジャクソンは、素早く照準を敵に合わせて、短い間隔で引き金を数回引く。軽快な射撃音と共に薬莢が弾け飛び、小口径の弾 丸を一度に何発も浴びた傀儡兵がのけぞり、倒れる。右手に見えていた敵には、すでにグリッグのM4A1が向けられていた。五.五六ミリ弾が放たれ、こちらの傀儡兵も崩れ落ちるようにして倒れ、 撃破された。煙が晴れるまでの一分もない時間のうちに、兵士たちは食堂にいた傀儡兵たちの制圧を完了する。 「オールクリア、上手いぞ」 「ナイスショット、いい腕だぜ」 短くお互いの腕を褒め合って、ジャクソンとグリッグは銃口を下ろした。爆破担当のギャズも加わって、乗組員たちの救助を行う。彼らはいずれも目隠しされて手足も縛られていたが、負傷した 者はいないようだ。一人一人、拘束を解いてやる。 乗組員たちのうち一人の解放を行おうとしたジャクソンは、ふと気付く。どこかで見覚えのある女性だった。栗毛色の髪をリボンで束ねた、どことなく姉貴のような雰囲気を持った女性。目隠し と口を覆っていたテープを引き剥がすと、やっぱりな、と納得した。確か、以前にクロノ・ハラオウンの元を訪ねた際に顔見知りになったことがある。名前を、エイミィと言ったか。 「エイミィ・リミエッタ? 俺が分かるか、ジャクソンだ。クロノの友人。奴はいるか?」 「ええ、分かります――クロノ君は、分からないけど。あの、どうしてここに。いったい何が」 「説明は後だ。動かないでくれ」 顔を合わせるなり疑問の声を上げるエイミィを無視して、ジャクソンはナイフを持ち出した。まったく、魔法の世界だと言うのに拘束方法はなんて原始的なんだ。胸のうちで悪態を吐き捨てながら 彼はナイフで彼女の手足を縛る縄を切り解いた。これで晴れて自由の身、見渡せばギャズもグリッグも他の乗組員たちを皆、解放していた。 「さて、どこから説明しようか――ああ、誤解しないでくれ。俺たちは君たちに危害を加えるつもりはない、本当だ」 解放されたばかりの『アースラ』乗組員たちは、しかし疲れと疑問が入り混じった表情をしていた。視線が自分たちの銃に向けられていることに気付き、兵士たちは得物から手を離して攻撃の意 思はないことをアピールする。とは言っても、それですぐに信用してくれるはずがなかった。どこからどう見ても、彼らの兵装は地球の質量兵器。管理局と地球、正確にはアメリカだが、とにかく 戦争状態にある相手と思われても仕方ない。 「あーあー、ちょっと。なんでうちらの到着待たんの。こら、ジャクソンさん」 どうしたものか、とジャクソンが頭を悩ませていると、不意に、独特のイントネーションを持った若い女性の声が響き渡った。振り返れば、見慣れた少女がそこにいた――八神はやて。彼女の姿 を見た時、わっと乗組員たちが湧いた。ようやく信頼できる人に会えたと言う様子だった。先頭に立ったエイミィが、はやての質問の雨を浴びせている。 「はやてちゃん!? 嘘、なんでここに!? クロノくんは? って言うかこの怖い兵隊さんたちは何!? 色々教えてよ、お姉さん分かんないことだらけだから!」 「ちょ、ちょう落ち着いてな、エイミィさん。他の方々も――あー、どこから話そうか。なぁ、ジャクソンさん?」 「おいおい、室長がそんなのじゃ困るぞ」 室長、と言う言葉に、乗組員たちは反応した。今のはやては、何かの要職に就いているのだろうか? 答えは、彼女自身の口から語られることになった。 「ゴホンッ――まぁその、記念すべき初任務やった訳やよ。"機動六課準備室"の、な」 SIDE Task Force141 四日目 1619 ブラジル リオ・デ・ジャネイロ ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 ここに、一つの動物の群れがあったとしよう。性格は非常に獰猛で、一匹では大したことはないが、ほとんどの場合、彼らは無数とさえ思えるような数で攻め入ってくる。そんな群れの長を捕獲し たならば、群れの者たちはどんな行動に出るのか? 答えは、至って単純だ。長を奪還すべく、攻め込んでくる。それも、一度に大量に、だ。 ローチたちTask Force141が直面しているのは、まさしくそういう敵による追撃だった。南米、ブラジルに居城を構える武器商人、アレハンドロ・ロハスは配下にスラム街の一帯を掌握できるほど の部下を持っており、ロハスを確保するということは、彼らが奪還に乗り出すのは当然のことと言えた。ロハスの確保に至るまで相当な数のギャングを排除したが、それすら氷山の一角に過ぎない。 Task Foroce141は一騎当千の強者揃いであることは間違いないが、ギャングどもはそれを数の暴力によって覆そうというのだ。これに打ち勝つことは出来ない。勝てない相手からは、逃げるしかない。 ところが、彼らを回収すべきはずの手段は司令部との通信が飛び交い混迷する一方の回線により、完全に消え去ってしまっていた。通信機のスイッチを入れてもほとんど雑音同然の音声しか拾わず 孤立無援、袋の鼠も同然に近い状況だ――"近い"と言うのは、完全に閉じ込められた訳ではないからだ。米軍による正規の脱出法は完全に消えたが、まだ非正規の方法が残っている。 「一人心当たりがある。携帯電話を貸してくれ、どれでもいい」 指揮官、マクダヴィッシュ大尉が突然妙なことを言い出した。何を考えてるんですか、と胸中に走った疑問はあえて口に出さず、ローチはスラム街の中の一軒、銃撃戦に巻き込まれるのを避けて住 民が逃げ出した無人の家屋に上がりこみ、古い型の携帯電話を探し当てた。そいつを上官に渡すと、マクダヴィッシュは迷いのない動きで番号を押し、電話する。どこにかけているのだろう。 「ああ、ああ、そうだ。今すぐ繋いでくれ――何? 海外通話にはカードがいる? そんなものないぞ。いいから繋げ……出来ない? くそ、ふざけやがって」 「どうしたんです?」 「ゴースト、お前財布持ってるか」 苛立ちを声と表情で露にするマクダヴィッシュに、副官のゴーストが尋ねてみる。回答は誰もが予想にしなかったものだ。クレジットカードの番号を教えてくれと。しかし、そうそう上手いこと 持ち合わせているものでもなかった。戦場に私物の財布を持ち込んでも意味がない。スラム街にクレジットカードなんてブルジョアめいたものがあるはずもない。 「大尉、俺のでよければ――経費で払ってくれますよね、これ」 「駄目ならシェパード将軍のポケットマネーから払ってもらおう。あー、VISAの……」 幸い、ただ一人クレジットカードを持ち合わせている者がいた。ミッドチルダ、時空管理局出身のティーダ・ランスター1尉だった。何で持ってるの、とローチが問いかけると、彼は地球で買い物 する時のため、と真顔で言った。おそらく本当であるに違いない。ミッドチルダと地球が正式に交流を持った時、異世界に進出を果たしたのは米軍や各国大使館以外にも、金融業界があった。しかし 特殊作戦に従事する者が、戦場にカードを持ち込むとはいかんせん緊張感が足りないのではないか。そう言いかけて、ローチは口を噤んだ。やめておこう。今はなんであれ、ティーダのカードが役に 立っているのだし。 「お得なプレミアムパック? いらん、早く繋いでくれ……よし、繋がった。ニコライ、久しぶりだな。助けてくれ」 どうやらマクダヴィッシュの言う"心当たり"と繋がったらしい。これで脱出の手はずは整うだろうか。ふと、ジェットの轟音を耳にして、兵士たちは上を見上げる。リオ・デ・ジャネイロの中でも 比較的標高が高い位置にあるこのスラム街は、空港に向けて着陸する、あるいは離陸する一般の旅客機がよく見えた。いっそあれに飛び乗れたらな、とはゴーストの呟き。飛び乗る、そういえば魔法 使いは飛べるのではないか。 「ティーダ、お前だけでも飛んで逃げたらどうだよ」 「冗談。俺だけ逃げても意味ないだろ?」 それもそうか、とローチは笑った。魔法使いらしからぬ装備をしたこの空戦魔導師は、自分たちと一緒に地面を這いつくばって行くつもりなのだ。 結論から言うと、ロハスは知っていることを全て喋った。ソープとゴーストが、彼から聞き出したのだ。スラム街を駆け抜けながら、彼らは分隊員に情報を伝達する。 「ロハスが知っていたのは、マカロフの居場所じゃなかった。奴は、マカロフがアメリカと管理局よりもずっと憎んでいる男がいるってことだけを話した」 「今はその情報に頼るしかない。もしそれが本当ならそいつを見つけ出して、マカロフを釣る餌にしよう」 しかし、聞き出せたのはたったそれだけなのか。誰しもが疑問に思うことだろう。よほどマカロフは、自分の情報を包み隠すことに長けているようだ。直接武器の取引を行った死の商人でさえ、彼 の行方は知らない。ところで、その武器商人はと言えば、虫の息と呼ぶにふさわしい状態で貧民街に放置されたままだった。死んではいないが、自力で動いていけるとは思えなかった。 「大尉、ロハスはどうすんで?」 「地元の警察に譲ってやる。もう通報済みだ」 ティーダからの問いかけに、マクダヴィッシュは足を止めず答える。なるほど、それがいいに違いないと質問者は呟いた。ロハスはギャングたちを束ねる頭領だ。地元警察も逮捕してしまえるならた だちに動いてくれるだろう。 問題はここからだ。マクダヴィッシュ大尉が救出用のヘリを呼んでくれたらしいが、回収地点に到達するまでは貧民街を抜けてその先、市場を通り越して広場に向かわねばならない。ヘリが着陸出 来るような地点は、そこしかないのだ。だが、怒り狂ったギャングどもは群がる蜂の如く、異邦人たちの撤退を阻止しに来るだろう。まさしく蜂の巣を突いたかのように。 Task Force141は指揮官を先頭にして坂を上り、市場へと繋がる道路に出た。そこでローチが目にしたのは、数両の自動車と、武装した集団――まずい、テクニカル(武装車両)だ。荷台に大口径の 機関銃を搭載して、容赦なく撃ってくる。ギャングどもが、彼らの進路を予測して配置したに違いなかった。 散れ、とマクダヴィッシュの指示が飛んだ。言われるまでもなく、ローチは手近にあったコンクリートの壁に飛び込む。敵が、こちらに気付くのにそう時間はかからなかった。理解不能なくらい早 口でまくし立てられた異国の言葉が走り、すぐに銃撃戦が始まる。彼の身を守る防壁は、しかし防弾に使うにしては少々頼りなかった。現に、ピュンピュンと貫通した小銃弾が身体のすぐ傍を掠めて 飛んで行く。死の恐怖が、ほんの一瞬で命を奪いかねない状況だ。くそ、と罵り、手にしていた短機関銃UMP45を持ち出し、危険を承知で身を乗り出す。短機関銃は威力と射程で小銃に劣る分、反動と重量が軽く、取り回しが良い。素早い照準、捉えた敵を撃つ、撃つ、撃つ。いくらか射撃した後、再び身を潜めてクイックリロード。中途半端に消耗したマガジンのままでは、いざという 時命に関わる。マガジンを銃に差し込み、再び銃撃。ダットサイトの向こうでギャングがあっ、と悲鳴を上げて家屋の屋上から文字通り撃ち落とされるのを確認し、駆け出す。次の障害物まで突っ走 り、身を隠す。少しずつでも前進していかねば。 「うわ、ち、くそっ」 ドンドンドン、と明らかに自分の持つUMP45や普通の小銃と違う、低く重い銃声が鳴り響いた時、ローチはそれが、自分に向けられているのだと思い知らされた。遮蔽物、それもそこそこに分厚そ うな家屋の陰に身を寄せたと言うのに、飛び込んできた銃弾は易々と貫通し、彼の周囲に着弾し、跳ね飛ぶ。テクニカルのM2重機関銃の射撃に違いない。口径一二.七ミリ、第二次世界大戦の頃から ずっと現役である老兵は、しかしその威力にまったく衰えを感じさせない。歩兵などボロ雑巾のように弄んでしまう。苦し紛れにUMP45を右手で壁から突き出し、引き金を引いて照準も何もない滅茶 苦茶な乱射で抵抗を試みる――駄目だ、これは死ぬ! 怒ったように反撃の銃撃を浴びせかけられ、ローチは身を伏せ、縮こまるしかなかった。勝てない。火力で圧倒的に負けているのだ。他の味方 も、状況は似たようなものだろう。ティーダ、と首元のマイクに戦友の名を浴びせて援護を求めようとするが、返事がない。 「車だ、車を撃て!」 誰の指示だったかは分からない。しかし、片方の耳に突っ込んだイヤホンに誰かの声が入ってきて、藁をも掴む思いで彼は指示に従った。機関銃座が設けられている白い車体のテクニカルに向けて UMP45を乱射。敵兵たちは激しく撃ち返してきたものの、弾に当たらないことを祈るほかなかった。身を掠め飛ぶ、銃弾と言う名の死神の嵐。訳の分からない雄叫びが聞こえて、それが自分のものだ と気付いたのは銃が、カチンッと機械的な断末魔を鳴らした時だった。リロードをやろうとして、いきなり後ろから首根っこを引っ張り掴まれ、強引に地面に叩きつけられる。ひっくり返る視界の最 中で彼が見出したのは、鮮やかな橙色をした髪の男。ティーダに、それからその背後で顔を髑髏のムバラクで覆った兵士もいた。これはゴーストだ。大胆にも遮蔽物に隠れようともせず、小銃のACR をフルオートでぶっ放していた。 直後、轟音。スラム街に熱風が渦巻いたかと思うと、黒煙と炎が敵のテクニカルを包み、荷台にあった機関銃がひっくり返っていた。慌てて逃げ出す敵兵たちの背中に向けて、今度はティーダの放 った魔力弾が叩き込まれる。彼は命中させる気はないらしく、威嚇射撃に止めていた。どの道、一人や二人撃ち倒したところで意味のない戦力差なのだ。適当に恐怖心を煽って撃たせず引っ込ませた 方が、脱出はやり易くなる。 テクニカルは、よくよく見れば日本のトヨタ製だった。日本車は高品質だとローチは聞いていたが、エンジン部にあまり多量の銃弾を撃ち込まれても耐えられるほど頑丈ではなかったのだろう。彼 の撃った銃弾と、それからゴーストの放ったACRの銃弾がやがて火災を引き起こし、引火と爆発を発生させたのだ。くそ、日本人はギャング相手にも商売するのか。 「立てるか?」 ティーダに差し出された手を無視して、ローチは立ち上がる。まだ、回収地点には到達出来ていない。ギャングどもも、これで諦める訳ではないだろう。Task Force141は硝煙と敵の死体で埋もれ るスラム街を進み、市場へと向かう。 「ティーダ、ケンタッキーは好きか!?」 案の定、市場に辿り着いた兵士たちと魔法使い一名は、激しいギャングどもの待ち伏せに会っていた。入り組んだ地形は視界を遮り、敵と味方の区別を困難にする。挙句、ここは敵地であり、敵兵 たちは土地勘を持っているのだから質が悪かった。普段はスラム街の中でも比較的活気がありそうな市場は、たちまち銃声と爆音、怒号に染め上げられる。放置された籠に中にいたニワトリたちが、 なんだかずいぶん場違いな感じがした。彼ら、もしくは彼女らはコケーッと悲鳴を上げるばかりで、何も出来ない。 物陰に隠れて、それでもなお銃撃に晒されるローチは、近くで彼を援護していた魔導師を呼んだ。呼ばれたティーダは拳銃型のデバイスで激しく敵にお返しの魔力弾を叩き込みながら――部隊の中 でも、彼の銃撃は猛威を振るっていた。入り組んだ地形であってもティーダの放つ弾は文字通り魔法で、見えない敵だって追尾する――「あぁ!?」と聞き返す。何を言ってるのか聞こえなかったら しい。仕方なく、兵士は少し離れたところで銃撃から身を隠すマクダヴィッシュに視線をやった。やれ、と指揮官は手で合図。了解、と口には出さず行動でローチは返事した。手には、手榴弾。 「フライドチキンは!? って言うか鶏肉好きか!?」 「嫌いじゃねぇよ、訳分かんねぇけど!」 それはよかった、とピンを抜く。一、二、三とカウントした後、ローチは手榴弾を敵がいると思しき方向に投げた。カラン、と一度地面をバウンドして転がった手榴弾は、市場の奥で爆発。一つと 言わずにもう二つ、と同じように手榴弾を投げ込み、爆発、爆発。直後、銃撃が止んだ。入り組んだ地形は爆風のエネルギーを反射させ、その威力を拡散させることなく、敵に死神となって襲い掛か ったのだ。市場に展開するギャングたちは、味方だと思っていた地形により敗北を喫したことになる。 ところで、何故ローチがフライドチキンは好きか、とティーダに訊ねた理由であるが、哀れにも爆風に巻き込まれたニワトリたちが市場には多数存在した。可哀想に、戦争に巻き込まれてしまった ばっかりに。次に生まれてくる時は、今度こそ美味しいチキンになるといい。 「カーネル・サンダースが泣いてるぞ。泣きすぎて川に投身自殺するんじゃないか、これ」 「ああ、十年ぐらいしたら上半身が出てくるさ」 さらば、ニワトリたちよ。君の犠牲は無駄にしない。ゴーストとマクダヴィッシュが短い追悼の言葉を送って、Task Force141は市場を抜けた。ようやく回収地点、ヘリが着陸できそうな広い平地 が見えてきた。と、その時、碧空の向こうからバタバタとローター音を鳴らしてやって来るヘリが見えた。ギャングどもが攻撃ヘリなど持っているはずもないから、おそらくマクダヴィッシュが呼ん だ救援のヘリだろう。その証拠に、指揮官は通信機でヘリと交信している。 「ニコライ、あと二〇秒で到着する。そっちも準備しててくれ!」 「友よ、それでは遅すぎるかもしれんぞ。上から見えるが、民兵どもがどんどん集まってきてる」 オープンにしていた通信回線に、ロシア訛りの強い英語が入ってきた。マクダヴィッシュがニコライと呼んだ、ヘリのパイロットのものらしい。ここまで来て、敵はまだ諦めないのだ。よほど主君 を奪われた憎しみは深かったのか、それとも単に血に飢えているのか。どちらにせよ、言えることは一つだ。逃げなきゃ、やばい。 家屋を抜けて近道し、ついに回収地点に辿り着く。頭上には、ヘリが待機していた。吹き付ける風、うるさいくらいのローター音がかえって頼もしい。ニコライのMH-53ペイブロウ大型輸送ヘリ。 米空軍で使用されている機体だが、国籍標識がないのを見るに、ひょっとしたら自家用機かもしれなかった――軍用の大型ヘリを自家用機? 乗ってるのはなんてブルジョアな奴なんだ。スラム街を 歩いたら金目のものを引っ手繰られるぞ。 ローチの思いは、現実のものになってしまった。ヘリとTask Force141が遭遇するなり、辺りからわらわらと銃を持ったギャングたちが押し寄せてきた。敵は直感的にMH-53を敵とみなし、激しい銃 撃を浴びせる。もちろん、歩兵用の小火器で簡単に落ちるほどニコライのヘリは脆いものではないが、こんな状況下で回収など出来るはずがない。 「駄目だ、攻撃が激しすぎる。着陸出来ない!」 「ニコライ、離脱しろ! 予備の回収地点に行ってくれ!」 「そうするよ、幸運を!」 やむを得ず、部隊はこの場での回収を諦めた。マクダヴィッシュを先頭に、Task Force141はギャングの攻撃を跳ね除けながら、家屋の屋根へ昇る。スラム街の屋根は繋がっていると言ってもいい ほどの密集しており、ほとんど平地と変わらないからだ。もちろん、敵の脅威が及ばない地点にまで移動せねばならないが。 「大尉、あのロシア人は信用できるんですか!? 逃げたってことはないでしょうね!?」 「ゴースト、無駄口叩く余裕はない!」 「くそ、了解です!」 ローチは、なんとなく嫌な予感がしていた。屋根に昇るが、回収地点はまだ先だ。文字通り屋根伝いに目標に向かって精一杯の駆け足で向かうが、スラム街の屋根はそう頑丈なものではない。足を 踏みつける度にギシッと軋む音がして、屈強な兵士たちが何人も同じ屋根の上を走り抜けていく。慎重に、などと言ってられる余裕もないが、それでも足が竦んでしまう。急げよ、と空は飛べるはず なのに最後まで徒歩で行くことになったティーダが背中を押してくれなければ、彼は一人置いていかれたかもしれない。 「戦友、上から見てるとスラム街全体がそっちを殺しにかかってるようだぞ。何か悪いことしただろ、動物殺したりとか」 「つまらんことを言ってる余裕があるなら離脱の準備をしろ! だいたいニワトリ殺したのは俺じゃない!」 そんな、大尉。俺が責任取るんですか。馬鹿なことを考えながら、跳ぶ、着地、走るを繰り返す。ヘリはもう目の前のところに来ていた。あと少しで――悪い予感が当たった。屋根が、途中で途切 れていたのだ。しかし今更躊躇は出来ない。部隊は皆、思い切り飛んで乗り越えていく。 ローチは、と言うと屋根が途切れる直前で踏み込み、一気にジャンプ。先に飛んだ――彼の場合は本当に飛んでいた。もう徒歩で援護する必要がない――ティーダの後を追う。だが、失速。踏み込 みが足りなかったか、それとも見えざる神の手が彼を跳ばせまいと足を引っ張ったか。ともかくも、ローチは向こう側に着地出来なかった。ギリギリのところで縁には掴まったものの、重力が彼を地 面に引きずり落とそうとズルズル引っ張っていく。うわわわ、と情けない悲鳴が上がった。 誰かが、自分のコールサインを呼んだ。ハッと見上げれば、先頭を進んでいたはずのマクダヴィッシュが、目の前にいた。彼は、手を差し伸べる。雪山でそうしたように。ローチも、彼の手を掴も うとしていた――届かない。差し出された手が、差し出した手がどちらもあと数センチのところで空を切り、そのままローチは、地面へと落ちてしまった。 頭の中で、鐘が鳴り響いている。それが命の危険が迫っていることを知らせる生存本能の警鐘だったのか、それとも彼を呼ぶ声だったのかは判別できない。おそらくどちらも正解だろう。ほんの数 十秒か数分か、ローチは気を失っていた。通信機には、ずっと彼を呼ぶマクダビッシュの声が響いている。ようやく我に返って、落下したのだと自分の状況を認識する。 ふらつく足取りで、どうにか立ち上がる。そうだ、逃げなければ。民家の壁に手を当てて支えにすると、屋根の上で誰かが騒いでいた。民間人かと思ったが、銃を手にしている――やっと、意識が はっきりしてきた。あれは、ギャングたちだ。こちらを指差して、何か言っている。まずい、見つかった! 「ローチ、逃げろ!」 マクダヴィッシュの声。言われずとも、彼は駆け出していた。偶然扉が開いていた民家の一つに突っ込む。直後、激しい銃撃が逃げ込んだ家屋の窓ガラスを木っ端微塵に叩き割った。飛び込んでき た銃弾が家電製品を傷つけ、火花を散らす。敵はもう間近に迫っている。 とにかく逃げた。飛び込んだ家屋に裏口があったのは、この上ない幸運だった。銃は落下した時に手放したらしく、今の彼は丸腰に近い状態だったが、かえって好都合だったかもしれない。身軽に なった身体は、墜落の衝撃などなかったように軽く、障害物を乗り越えていくのに最適だった。とは言え、危機感は消えない。走り抜けていく兵士のすぐ後ろを、死神が通り抜けていった。銃弾が真 後ろに着弾しているのだ。所詮訓練されていないギャングの射撃は上手いものではないが、恐怖心を煽るには充分過ぎる。 裏口を抜けて細い路地を銃撃に晒されながら逃げて、やっと屋根に辿り着く。滅茶苦茶に逃げ回っていたのだから、凄い偶然だ。ヘリが上空を通過していって、ニコライのMH-53が迎えに来てくれた ことに気付く。あれを逃がしたら、今度こそ終わりだ。踏み越え、乗り越え、駆け出し、走り、跳び、ついにヘリが目前に迫る。家屋を抜けて、柵の一つもないベランダから跳び込む。キャビンから 下ろされていた縄梯子に手を伸ばす――また届かない。畜生、俺は呪われてるのか。神よ、俺にここで死ねと!? 伸ばした手を、誰かが掴む。ティーダだった。空戦魔導師が、ヘリに併走する形で空を飛び、ローチを救出したのだ。 「神が許さなくても俺が許すってね――大丈夫か、落ちるなよ」 「言われなくてももう落ちたくねぇよ」 眼下は大西洋に繋がる海、ここで落ちたら今度こそ死んでしまう。必死にティーダの手を掴んで、ローチは早くヘリに入れてくれ、と悲鳴に近い声で訴えた。 「友よ、どこに行けばいい?」 「潜水艦だ」 一方、MH-53のコクピットではホッとした様子のマクダヴィッシュが、パイロットのニコライに行き先を伝えていた。 死地から脱したTask Force141には、しかしまだやるべきことが残っている。マカロフが唯一アメリカよりも憎む『囚人627号』を探さなければならない。 戻る 次へ
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SIDE 時空管理局 二日目 時刻 0715 第三三五管理世界 フェニックス前線基地 クロノ・ハラオウン執務官 砂漠の早朝は、驚くほどに冷え込んだ。気候の安定した故郷のミッドチルダや、空調の効いた次元航行艦と比べると、改めてここは最果ての地なのだなと実感する。 とは言え、屋内にいれば寒気など別の世界の出来事だ。寝起きの脳はエアコンからの暖かい、それでいて気候に悪影響を与えることのない空気を受けて、またウトウトと眠りにつこうとする。 コーヒーを一杯飲んで眠気覚まし、そこから書類を見ながらカロリーブロックで朝食。クロノ・ハラオウンの一日の始まりは、異世界においても一緒だった。忙しい身分ゆえに、仕事と食事は平行 して行うことがしばしばあるのだ。 彼が目を通すのは、昨日行われた米軍、管理局の合同部隊の救出作戦の報告書。紛争の絶えない管理世界を偵察していたところ、管理局に反発する現地武装勢力に襲撃させられ、孤立。ただちに米 軍は救援部隊を送り込んで、孤立部隊を救出したと言う一連の流れが、細部に渡ってまとめられていた。 紙媒体じゃなくてこっちならもっと早いのだが――報告書を読み通していく思考とはまた別に、脳裏でふとした雑念。こっち、とはすなわち魔法のことだ。ブラウン管でも液晶でもない、文字通り 魔法のクリアなディスプレイは電源要らず、どこにでも展開できる。にも関わらず報告書が紙なのは、魔力資質を持たない米軍兵士と都合を合わせるためだった。 コンコン、とその時である。扉がノックされて、その魔力資質を持たない者が現れた。装具や銃こそないが、米海兵隊の迷彩服を着た屈強そうな兵士。襟元には曹長の階級章。ポール・ジャクソン 在ミッドチルダ米軍連絡官が、よぉ、と気さくな朝の挨拶と共にやって来たのだ。 「朝からご苦労様だな。どうだ、陸軍(アーミー)の連中の手並みは」 「報告書を読む限りでは、上等なものだと思う。あの中将が自ら最前線に立ったのはどうかと思うけど」 あぁ、とクロノの言葉を受けて、ジャクソンは苦笑い。将軍はそういう人さ、と答えながら、部屋にあったコーヒーポットを少しばかり拝借。紙コップに注いで、湯気の上る熱いコーヒーをグビリ と一杯。 「このシェパード将軍か。優秀な兵士を引き抜いて、独立部隊を作ろうとしてるのは」 「Task Froce141」 「――何だって?」 「あの将軍が作ろうとしてる部隊の名さ。混成部隊(タスク・フォース)。その名の通りうちの陸軍(アーミー)、海軍(ネイビー)、海兵隊(マリーン)、イギリスのSAS、管理局の魔導師。国境どころか 世界すら跨いだ史上最強の特殊部隊」 なるほど、確かに最強と呼ぶに値するかもしれない。ジャクソンの解説を受けて、クロノは納得。同時に、ふと妙な既視感のようなものを覚えてしまう。各方面から精鋭を引き抜いて編成された独 立部隊。どこかで似たようなものを、聞いたような気がした。 脳裏の奥に探りを入れて、それが表面化した時、ふっと彼は唐突に笑う。そうか、確かに『彼女』が似たような部隊を編成しようと張り切っていたな。 いきなり笑みを浮かべた戦友に、ジャクソンは怪訝な表情。どうしたよ、と尋ねると、いいや、と前置きして問われた青年は答えだす。 「最近、管理局(うち)の方でもそんな部隊を作ろうって話がある部署から上がって来てね。僕も計画立案にいくらか携わってるんだ。メインはあくまで向こうだけど」 「何だと、そりゃ初耳だな――なんだ、何がおかしい、ん?」 コーヒー片手に、人の顔をニヤニヤと見られたら誰だってジャクソンのような反応を起こすだろう。クロノはしかし、明確な回答を避けた。暗に思わせぶりな答えしか寄越さない。 「いや、何。君もよく知ってる人だよ、立案者は。と言うか、その様子だと何も聞かされてないんだね」 「おいおい、もったいぶるなよ――まぁ、いい。それよりもだ」 がらりと、海兵隊員の持つ雰囲気が変わる。声色こそ変わらず、挙動も変化なし。だが、クロノは彼の持つこの雰囲気を知っていた。身近にさえ感じたことだってある。 すなわち、戦場の空気。死線を共に潜り抜けてきた戦友は、銃を手に敵と対峙している時の持つピンと張り詰めた匂いを漂わせていた。ここから先はおふざけなし、真面目で、ともすれば生死に関 わる話、と言う訳だ。 ジャクソンは、クロノが持つそれとは別の報告書を何枚か持参してきていた。今朝方、参謀本部から届いたものだと解説をつけて手渡す。 「第三三五管理世界の武装勢力より鹵獲した、武器装備の調査報告?」 「知っての通り、奴らは地球から密輸したらしいロシア製の銃火器を多用している。出所を探ったのさ」 なるほど、米軍にしてみれば自分たちの世界にしか存在しない武器を敵が持っているのだ。当初は粗悪なコピーかと思われていたが、実際に鹵獲された武器弾薬を調査すると、地球で製造されたも のであることが判明する。彼らが持つ報告書は、その続報と言ったところだ。 しばらく報告書を読み、そしてクロノが顔を上げた。まさか、と疑いの意味を込めての視線。しかし、戦友は首を横に振って否定。間違いないとも付け加えさえした。 「武器の売買に、超国家主義者たちが関与している。こんな馬鹿な話があるか、僕は確かに――」 「ああ、俺もあの場にいたからな。超国家主義者のリーダー、イムラン・ザカエフはお前に撃たれて死んだ。綺麗に頭をぶち抜かれて」 だったらどうして。当時、まだ少年だった執務官は口に出さずともそう言いたげな様子が見て取れた。手のひらに甦るM1911A1の反動、放った銃弾は間違いなくザカエフを仕留めていた。 「超国家主義者にも、いろいろ派閥があるそうだ」 もう一枚、ジャクソンは報告書を取り出した。こちらは写真付き、ある人物に関する調査報告書のようだ。 写真に写っていたのは、一人の男だった。ザカエフと同じように鋭い眼光を持った、しかし鮫のように無表情な男。 ザカエフの写真にはまだ感情が見て取れた。西側諸国に身を売る祖国を奪還しようと、そのためなら世界を滅ぼすことも辞さない一種の狂気。だが、この男は違う。写真を見ただけでは、本当に何 を考えているのか分からない。ひたすらに無。何者にも読み取れないと言う事実を叩きつけられたような怖ささえあった。 「新しい超国家主義者のリーダーってとこだ。こいつが残党を纏め上げて、率いてる」 「名前は」 「マカロフ」 SIDE C.I.A 二日目 時刻 0725 大西洋 米海軍ヴァージニア級潜水艦『アリゾナ』 ジョセフ・アレン上等兵 まさか、潜水艦の艦内でスーツを着るとは思ってもみなかった。真新しい背広は、野戦服と違ってパリッとしており、何だか落ち着かない。 最新鋭とは言えこの『アリゾナ』は、潜水艦の常識から出ることなく狭い。少なくとも陸兵であったアレンにとって、四方八方を鉄に覆われた空間は酷い閉鎖感を伴っている。しかも、壁の向こう は海なのだ。一度浸水が起これば、あっという間に飲み込まれてしまう。何事もなく任務に従事する水兵たちが、とても勇ましくすら思えた。 では、俺は何なのだろう――居心地が悪そうにネクタイを緩めて、アレンは物思いにふけりながら艦内の通路を進んでいく――狭い潜水艦に押し込められ、浸水の恐怖に震える臆病者? いいや、俺 は臆病者などではない。臆病者であるなら、自分が"選ばれる"はずがない。仮に臆病者であったにしても、戦場ではそういう奴の方が長生き出来ることもある。 「どうです?」 士官室を間借りする形で設けられた『司令部』に足を踏み入れ、アレンは彼を待っていた男に訊ねた。自分の選んだのはその男であり、任務を命じたのもまたこの男なのだ。背広が似合っているか どうか、聞いても罰は当たるまい。 「まさに"悪党"だな」 男は――海軍の艦内であるはずなのに、陸軍の将官用制服に身を包んだ男、シェパード将軍は、一言で感想を述べた。それはよかった、と質問者も納得した様子で頷いてみせる。 一方、壁にもたれ掛かって退屈そうにしていた青年が一人。背広を着てやって来たアレンに「遅いぞ」とでも言いたげな視線を飛ばし、鮮やかな橙色の髪を掻き揚げた。 「悪いな、ティーダ。ネクタイなんて就職活動の時以来だったから――失礼、ティーダ・ランスター1尉」 「ティーダでいい――んだよ、お前。銃の撃ち方は分かるのに、ネクタイの締め方は分かんねぇのか」 「銃を撃つ方が簡単だからな。狙って、引き金を引く。これだけさ」 開き直ったような兵士の態度に、ティーダと呼ばれた青年は怒ることも忘れて苦笑い。出会ってからまだ一日だが、一度共に死線を潜り抜けた瞬間から、彼らは戦友と呼べる間柄だった。 「まぁ、潜入任務にはうってつけじゃないか。で、将軍? ご褒美は"マカロフ"ですか?」 戦友との会話もそこそこに切り上げ、ティーダは本題に入るようシェパードに訊ねる。無表情のまま、この戦うことを生き甲斐とする軍人はプリントアウトした写真を持ち出し、机の上に広げた。 写真に写っていたのは、一人のロシア人。鮫のように無感情な瞳をした男――マカロフ。超国家主義者たちの、新たなリーダー。 「こいつがそんな上等なものに見えるか。金のためなら平然と人を殺す、ただの狂犬。売女(ビッチ)だ」 なるほど、と将軍の証したマカロフの人物像を聞いて、アレンは納得する。 前リーダーのザカエフは、文字通りの狂信的な国家主義者だった。かつてのソ連の指導者スターリンを崇拝し、強いロシアを取り戻そうとした。 だが、マカロフは違う。彼は、長い内戦の末に疲弊してしまった祖国に、見切りをつけた。かつての大国ロシアは超国家主義者たちの大半を駆逐することに成功すれど、二度と力を取り戻すには至 らないまでに荒れ果ててしまったのだ。だからこそ、この狂犬は国家よりも信じられるものに目をつけた。すなわち、金だ。 運悪く時空管理局の存在が明るみに出て、地球と他の世界との行き来が可能になり始めた頃、彼は九七管理外世界より姿を消す。紛争の絶えない他の世界を渡り歩いては、ある時は傭兵、ある時は 武器を売買する死の商人として動くためだ。先日の第三三五管理世界における現地武装勢力との戦闘も、この男の存在が何らかの形で関与している。 「それよりも、新しい"素性"を叩き込んでおけ。ロシア語は話せるな?」 「大学時代は語学を専攻しましたから」 ならいい、と問いかけに答えたアレンに対し、シェパードは頷いてみせた。それから、ティーダとアレンを交互に見渡し、改めて彼らを迎え入れる。 「ようこそ、"141"へ。史上最強の特殊部隊だ」 「はい閣下、光栄であります」 大した感動を見せることなく、ティーダがラフな敬礼と共に適当な返事を口にする。将軍が、それに対して機嫌を損ねた様子はない。彼は兵士に素行の良さを求めてはいない。ただ任務を遂行する ことだけを求めていた。 「で、他の連中はどこへ? まさか我々だけ、という事ではないでしょう」 「無論だ。彼らは落下したACSモジュールの回収任務に就いている――アレン上等兵はこのまま命令があるまで待機。ティーダ1尉には、彼らのところに行ってもらおう」 「了解しました――は? 今からですか? どこに?」 質問したら、思わぬ命令が回答に付け加えられてきた。戸惑う青年に、シェパードはやはり無表情のまま告げる。 「想像してみろ、今にも凍りつかんとしている場所だ」 Call of lyrical Modern Warfare 2 第3話 Cliffhanger / "プランB" SIDE Task Force141 カザフスタン共和国 天山山脈 ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 超国家主義者たちは、ロシア本土より大半が駆逐された。結果としてかつての大国ロシアは荒れ果てたが、ひとまずのところ内戦の可能性は消えたと言える。 だが、中にはしぶとく居座る連中もいる。彼らが目指す旧ロシア空軍基地は、まさしく超国家主義者たちの残党が潜む"敵地"だった。基地司令は奴らとグルになっており、テロリストを匿っている。 本題は、ここからだ。まずいことに、姿勢制御のソフトに深刻なエラーが発生したことから、米軍の監視衛星が落下してしまった――よりにもよって、この天山山脈で。彼らの目的は、墜落した監 視衛星の姿勢制御を司るACSモジュールの回収であった。 敵地への潜入のため、侵入ルートは限られる。極力人目につかず、敵の監視網に入らない、要するに『まさかここから来るはずがない』と言うルートを通る必要があった。 ――だからと言って、こんなところを通ると言うのはどうなんだ。 寒さは、文字通り身体を凍てつかせるかの如く厳しい。吐いた息が瞬時に冷却され、口の周りを白く汚す。グローブに覆われた手で時折払いのけるが、時間が経てばまたすぐ同じことを繰り返す。 おまけに、だ。もうずいぶん高いところにまで昇ったが故、チラッとでも視線を下げれば、吸い込まれるようにして広い雪の大地が眼下に広がっている。足を一歩踏み外せば最後、あっという間に あの世行き。これでもまだ、目的地は今より高い場所にあると言うのだ。もう少しマシなルートはなかったのか、誰もがそう考えてしまう。 「休憩は終わりだ、ローチ」 しかし、この男だけは違うようだ。頭上を駆け抜けていったMiG-29、おそらくは目指す空軍基地から発進したと思われる戦闘機を見送り、吸っていた葉巻を奈落の向こうへ投げ捨てる。タバコのポ イ捨て、などと批判することは出来ない。どう見ても道ではない、狭い足場を顔色一つ変えずに渡り進んでいく度胸を見れば、誰だって口を噤んでしまう。 ホント、超人過ぎるよマクダヴィッシュ大尉は――ため息を吐いて、ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹は立ち上がる。上官が足を進める以上は、自分も行かねばならない。 登山靴に装着したアイゼンと呼ばれる爪は、しっかり氷の地面に食い込む。うっかり足を滑らせて、と言う事態を避けるためだ。とは言ったものの、何しろ背中を預ける雪山の斜面は、狭い足場を 進む兵士の背中を押すようにして聳え立っている。なるべく視線を下げないようにして、ローチは壁に背を向けて摺り足で進んでいく。 「ここで待て、氷の状態を見る」 途中、先を行くマクダヴィッシュが居心地悪そうにぶら下げたM21EBR狙撃銃をずらし、同じくぶら下げていたピッケルを持ち出す。二本のうち一本、右手で持つ方を目指す氷の壁に突き刺し、大胆 にもこの上官は、狭い足場でくるりと一八〇度、身体の向きを回転させた。昇るべき壁面と向き合った後、左手のピッケルを上へと突き刺し、グッと腕に力を込めて身体を引っ張り、登っていく。 あとは右、左、右、左と交互にピッケルを壁に抜き差しして、アイスクライミング。 「よし、氷はいい感じだ。ついて来い」 はーい、と声には出さず行動で返事。マクダヴィッシュとまったく同じ要領で、ローチはピッケルを氷に突き刺し、彼の後を追っていく。 右、左、右、左と単調な作業の連続だが、完全装備で垂直の壁を登っていくのは簡単なことではない。否応なしに呼吸が荒くなり、吐息がまたしても口の周りを白く汚しだす。くそ、と悪態の一つ でも漏らさなければ、とてもじゃないがやってられない。 その時、上空で轟音。ドッと腹に響くほど大きなジェットエンジンの唸り声を撒き散らしながら、敵のMiG-29がすぐ頭上を駆け抜けていった。 侵入に気付いた訳ではあるまい、単に離陸していっただけだ。もっともおかげで、轟音と衝撃で割れた薄い氷の破片が目下登山の真っ最中の兵士たちに降り注ぐのだが。何だと思って、動きを止めた のは幸いだったかもしれない。バラバラと降ってくる氷の雨を耐えしのぎ、ローチはアイスクライミングを続行する。 ようやく登り切った。足場があることの素晴らしさ、感動を覚えてしまうほどだ。しかしながら、ここはまだ目的地ではないらしい。先に登頂していたマクダヴィッシュは、彼の到着を確認するな り頷き、「それじゃあ、あっちで会おう」とか言い出した。 「大尉?」 「幸運を」 何を言ってるんですか。呼び止めようとした頃には、何を思ったかこの上官、いきなり走り出して霧の向こうに姿を消したではないか。慌ててローチが霧の奥に目を凝らすと、白いカーテンの向こ うで、ピッケルを氷に突き刺す音が聞こえた。崖の向こうで、マクダヴィッシュがジャンプした末に壁に飛びつき、その状態でアイスクライミングを始めたのだ。 ちょっと待て。ローチは、足を止めてしまう。大尉は、「あっちで会おう」と言った。つまり、自分も同じことをやらねばならない。その通りだ、とでも言わんばかりに、霧の向こうにいる人影が 壁に引っ付いたまま、手招きしていた。 ええい、ままよ――今更ながら、上官が「幸運を」と言っていた理由が分かった。上手く壁に引っ付けるかは、運による。雪山との運試しだ――助走をつけて、兵士は駆け出す。地面がぎりぎり途 絶える寸前、足に力を込めて一気に跳躍。 氷の壁は、あっという間に目の前に迫ってきた。両腕のピッケルを、躊躇なく力いっぱい突き刺す。食い込みが悪い。予想以上に硬かったのだ。ズルズルと見えない手に足を引きずられるようにし て、ローチはピッケルを突き刺したまま氷の壁の上を落ちていく。 「踏ん張れ、持ち堪えろ!」 マクダヴィッシュの指示が飛ぶ。言われなくても、力いっぱい踏ん張っていた。それでも落ちていく身体は――止まった。右手で握るピッケルは弾かれるようにして壁から離れてしまったけども、 左手のピッケルが危ういところで、持ち主の身体を引き止めていた。 とは言え、いつまで持つか。うっかり視線を下げてしまったことを、ローチは深く後悔した。このピッケルを手放せば、後は地面に向けて落ちるだけ。にも関わらず、氷に食い込んだはずのピッケ ルは少しずつ、壁に押し出されるようにして外れかけている。 あぁ、これもう駄目だ! 諦めが脳裏をよぎったのと、ピッケルがついに外れたのはほぼ同時。重力に引っ張られる己が身体、しかし一瞬遅れて視界に現れるのは太く鍛えられた腕。 「おっと。逃がさないぜ」 パシッと、落ちかけた身体の左腕が掴まれ、引き止められる。マクダヴィッシュが、危険を冒して助けに来てくれたのだ。 「た、助かりました。すいません、大尉――」 「礼と謝罪は後回しだ。昇れるな?」 こっちもなかなかきついんだ。そう語る上官の顔に、辛さは見えない。 この人とならどこにだって、どこまでもだって行ける。ローチは、胸に勇気が溢れかえるような気がした。 アナログ極まる方法でアイスクライミングをやり遂げたローチを次に待っていたのは、最先端のデジタルだった。 「ローチ、心拍センサーを見てみろ」 ひとまずまともな足場に辿り着くなり、マクダヴィッシュが命令を下す。これですね、とローチはACRアサルトライフルを構え――米国のマグプル社が原型のMASADAを開発し、レミントン社が軍用モデルを製造する新世代ライフルだ――銃の中ほど、機関部に付属していたパネルを開く。 電子装備の登場により、現代戦は複雑さを増している。彼が開いたこの心拍センサーも、まさしくその最中で登場した索敵のための装備だった。事前に登録を受けた者の心音、つまり味方は青色の 点で表示し、そうでないもの、例えば敵などは白い光点で表示する。これなら視界が極端に悪い環境であっても、敵味方をしっかり識別した上で見失うことはなくなる。 「青が俺、それ以外が白だ。簡単だろう」 「白い奴だけ撃てばいいんですね、分かります」 ならいい、と上官は前進の指示。危険な道のりを乗り越えてきたが故、敵の哨戒網に引っかかることなく目標の空軍基地に接近することができた。もうすぐそこ、左に視線をやれば霧の向こうに滑 走路らしい人工の大地と、誘導灯と思しき光がチラチラ見えている。 とは言え、基地のすぐ傍となれば敵兵がうろついているのも充分にあり得る話だった。現に銃を構え、腰を低くして前進していくマクダヴィッシュとローチの前に姿を見せたのは、AK-47やFAMASを 担いだ敵兵士。間抜けに後姿を晒していたが、無視して進もうにも進行方向が被っていた。 「あの様子じゃ、奴さんたちは俺たちが間近にいるなんて考えもしてないだろう。落ち着いて、確実にやる」 了解、とマクダヴィッシュの命令に頷き、ローチははるか向こうでトボトボと歩いていく敵の背中に銃口を向けた。歩哨の数は二人、どちらか片方を撃てば残った片方が気付き、騒いでしまう。あ くまでも同時に、二人まとめて射殺する必要がありそうだ。 「お前は左をやれ。3カウントだ」 上官は、サイレンサーを取り付けたM21狙撃銃を右の敵に向ける。指示通りにローチはACRの照準を左の敵兵士に向け、狙う。 引き金に指をかけて、幾つかの呼吸。すっと息を吸い込み、そのまま閉じ込めるようにして呼吸を止めた。 「1、2、3――撃て」 引き金を引く。銃床を押し付ける肩に、軽く小刻みな反動が数回響く。ACRの銃口から放たれた複数の五.五六ミリ弾はサイレンサーで銃声を消された上で、敵兵の背中に襲い掛かった。あっと悲 鳴も上がらぬままに崩れ落ちる敵。隣の兵士は何事かと振り返ろうとした瞬間、マクダヴィッシュの放った弾丸によって仲間の後を追う。 敵兵排除、再度前進。道中、同じように遭遇した歩哨もこれも同様の手筈で難なく排除し、さらに彼らは進んでいった。 基地の外壁に到達すると、マクダヴィッシュがここで「二手に別れよう」と提案してきた。狙撃銃とサーマルゴーグルを持つ彼は高台に上り、観測手となる。ローチは単独で基地に潜入し、上官の 指示と援護射撃を受けながら進んでいく。 しかし、単独か。一瞬不安そうな表情を見せた部下に、ベテラン兵士は安心しろ、と言う。 「この吹雪じゃお前は幽霊みたいなもんだ。よほど近寄らんと、敵は見えんさ」 「理屈はそうかもしれませんが……」 「センサーを頼りに進め、幸運を」 "つべこべ言うな、行け"ってことですね、ハイハイ――そうは言っても、つい先ほどの命の恩人の言うことだ。心拍センサーは正常に機能しているし、何より大尉の言うとおり、さっきから辺りを 漂う雪に風が入り混じりつつある。風、と呼ぶには生温いかもしれない。これはもう吹雪、雪風だ。こうして壁の影に身を潜めている間にも視界は悪化していき、もう五メートル先は真っ白で何も 見えないほどだった。 銃口を正面に突きつけ、ローチは姿勢を低くして進む。ちらりとACRのパネルに目をやるが、白い光点ははるか向こうだ。気付かれた様子もなく、抜き足差し足で忍び込んでいく。 ――っと、危ない。肉眼では白い闇に阻まれ何も見えないが、センサーは正確だ。真正面に、こちらに向かってくる白い光点が一つ。傍らにあった資材に身を潜め、一旦敵の視界から逃れることと する。何も知らない敵兵は、ふんふんとのん気に鼻歌を歌いながら道を行き、ローチが隠れる資材の影にも目をくれず、行き過ぎていった。 プシュッと、聞こえたかも定かではないほど小さな音がその時、彼の耳に入った。視線を上げると、先ほど鼻歌を歌って行き過ぎた敵が道端で倒れ、動かなくなっている。 「忘れてくれ」 片方の耳に突っ込んだイヤホンに、マクダヴィッシュ大尉の声。なるほど、さては狙撃したに違いない。サーマルゴーグルがあるとは言え、この吹雪の中で大したものだ。感嘆として、ローチは前 進を再開する。 さすがにこっそりと侵入しただけあって、敵の警戒網はさほど厳しいものではなかった。詰め所の中でストーブに当たっている敵兵を見つけた時は、羨ましいとも思いつつ無視して先を行く。こっ ちは山登りの果てに、吐息も凍る寒さの中で戦争をやっていると言うのに。 心拍センサーに映った白い光点をやり過ごし、あるいは観測手に狙撃してもらい、着実に進んでいく。その途中、マクダヴィッシュから指示が飛んだ。 「ローチ、敵の通信を傍受した。南東に給油所があるようだ、プランBのためにC4をセットしてこい」 プランB? それって何にもないって意味じゃ――首をかしげて、しかし命令は命令だ。敵の合間を掻い潜って進んでいくと、やたらと広い空間に躍り出た。地面を見ると、アスファルトが敷き詰め られた人工のようで、「35」と番号が書かれていたり、矢印が描かれていた。なるほど、どうやら滑走路のようだ。進んでいる途中に敵の戦闘機が飛び上がったり降りてこないかとも思ったが、さ すがに視界が悪いせいかそれはなさそうだ。駐機されているMiG-29に、離陸しようとする気配は見られなかった。着陸機も、真っ白い虚空の向こうからジェットエンジンの轟音は聞こえてこない。 指示通りに進み、行き止まりにぶち当たる。否、赤いハンドルやパイプ、火気厳禁の標識が立ち並んでいるのを見るに、ここが給油所であるに違いないだろう。バックパックから粘土のようなプラ スチック爆弾"C4"と信管、起爆装置を持ち出し、貯蔵タンクと思しきものにセット。これでプランBの準備は整った。 「大尉、プランBの用意ができました。今どこです?」 「待て、また敵の通信だ――よし、衛星の保管場所が判明した。南西にある格納庫内だ、手前で落ち合おう。競争だ」 競争って、ちょっと大尉。問いただそうにも、無線の相手は「通信アウト」と一方的に宣言し、回線を切ってしまった。あ、とローチが声を上げる頃には、すでに移動を開始したに違いない。 フライングとは卑怯な。雑念を脳裏によぎらせつつも、再び心拍センサーを頼りに彼は進みだす。目指すは南西、目的の回収対象である衛星が保管されているらしい格納庫だ。 それなりに急いだはずだったのだが、目的地の格納庫裏に辿り着く頃には、すでに心拍センサーが青い光点を映し出していた。 一応警戒しながら進み、屋根の下に入れば、どこで拾ったのかAK-47に持ち替えたマクダヴィッシュの姿があった。 「観光ルートでも通ってきたのか?」 「吹雪で何にも見えやしませんよ」 フムン、それもそうか。ローチに答えに妙に納得した様子で頷いた上官は、しかしすぐにGOサインを下す。今度は自ら先頭に立って、格納庫に通じる扉を開けて突き進む。 扉を抜けると、短い廊下に出た。まっすぐ進んで突き当たりを行けばいよいよ格納庫中心部であるに違いない――が、フラフラと歩いて何者かが正面に現れた。白い迷彩服に、AK-47を担いだ、紛 うことなき敵兵だった。咄嗟に、ローチはACRの銃口を跳ね上げ、敵に向ける。その直前、前を進んでいたマクダヴィッシュがダッと駆け出した。 止める暇もないほど、あっという間の出来事。ベテラン兵士の体当たりを受けた敵はいきなり訳も分からず、廊下の壁に並んでいたロッカーに叩きつけられる。上に置いてあった段ボールが転げ落 ちて、ロッカーの扉が開いて金属音を鳴り立てた。ひっくり返った敵兵に向けて、マクダヴィッシュはナイフを引き抜き、首の急所を一刺し。素早く抜いて、何事もなかったかのようにまた進む。 野獣か、この人は――哀れにも犠牲となった敵兵士の死体を踏み越えて、後を追う。 格納庫中心部に到達すると、彼らを待ち構えていたのは所々に焦げ目がついてしまった、ボロボロの人工衛星だった。これが目標のものであるに違いないが、人工衛星そのものは回収対象には入っ ていない。どの道、いくら訓練された兵士だからと言って二人で敵地から盗みだせるようなものでもない。 「上に行ってACSモジュールを持って来い」 上官の言うとおり、回収すべきは姿勢制御を司るACSモジュールと呼ばれる部品だ。迷彩服の懐に入ってしまうようなサイズでしかないが、今回の任務はそもそもACSモジュールに深刻なエラーが発 生したが故に生起したものだった。 指示を下す傍ら、マクダヴィッシュは手近にあった電動ドライバーを人工衛星の蓋に押し当て、解体を始めた。どこを調査されたのか調べるためだ。ローチは何も言わず、指示されたとおりに二階 へと続く階段を上る。 警戒しながら進んでみたが、誰もいない。二階に上がった彼を待ち受けていたのは、しんと静まり返った部屋。奥の机の上に、無造作に置かれたACSモジュールがあるのみだった――否、それ以外 にもう一つ。格納庫内部は外とさほど変わらない寒さであるにも関わらず、妙にこの二階だけは暖かい。ストーブが設置されていたのだ。 ACSモジュールを懐に入れて回収、わずかばかりストーブに手を当てて暖を取る。ついつい「はぁー、あったけぇ……」と口に漏らしてしまった。 ピッ、とちょうどその時電子音。ん? と怪訝な表情でストーブに当たったまま手元を見ると、ACRのパネル、心拍センサーに反応があった。白い光点が一つ、二つ、三つ――ちょっと待て。 機械音が鳴り響いたのは、その直後だった。ガコッと扉が開かれるような音。心拍センサーに映る白い光点も、もはや数え切れないほどの数に膨れ上がる。 「ローチ、見つかった」 マクダヴィッシュの声が、通信で届く。 駆け出し、ローチが目撃したのは開かれた格納庫の扉と、その幅いっぱいに広がる敵兵たちの群れだった。中央にいる拳銃を持つ将校らしき男は、おそらく指揮官。ひょっとしたら基地司令かもし れなかったが、そんなことはどうでもいい。敵兵たちはいずれも銃を構え、照準をすでに合わせているようだった――手を上げ、身動き出来ないでいるマクダヴィッシュに。 助けなきゃ。そう考えるのは、誰にだってあり得る。しかし、どうやって。こっちはアサルトライフルが一丁、向こうは何十丁もある。下手に発砲しようものなら凄まじい弾幕がこちらを襲うであ ろうし、何より大尉は身動きできない。 「私は当基地司令、ペトロフ少佐だ! 両手を挙げて出て来い!」 将校らしき男、指揮官は拡声器を手にそう告げた。わざわざ名を名乗るのは、自己顕示欲の表れだろうか。ともかくもローチは物陰に身を伏せたまま、敵の動向を伺う。 「侵入者に告ぐ、貴様の仲間は捕らえた! 上にいるのは分かっている、降伏すれば命は助けてやろう!」 やっぱりか。ACRの引き金に指をかけたまま、彼は状況を整理する。敵は、マクダヴィッシュ大尉を人質に取ったつもりでいるのだろう。そして、"上にいるのは分かっている"ということはつまり、 こちらの詳細な位置は概ねでしか掴んでいないのだ。分かっているならさっさと大尉は射殺して、二階に踏み込んでくるに違いない。 とは言え、どうしたものか――フルオート射撃でビビらせないだろうか? いや、発砲炎で位置がバレるだけだ。最初の一瞬は驚くにしても、すぐに体勢を立て直して反撃してくる。たかが一人の 射撃では、その程度が限界なのだ。上官が射撃に加わってくれればまた違ってくるかもしれないが、何度も言うように大尉は手を上げていて、身動き出来ないでいる。 「ローチ、プランB」 ――ああ、なるほど。そういえばその手があったか。 囁くようにして入った通信は、当のマクダヴィッシュ大尉からだった。すっかり忘れていた、まだ手はある。 ローチがスイッチを取り出したのと、相手が反応を見せないのに苛立った敵の指揮官が、また拡声器で声を張り上げだすのはほぼ同時の出来事。 「五秒だけ時間をやる! 五、四――」 しかし、上手くいくだろうか。不安が一瞬、脳裏をよぎる。敵が驚いてくれなければ、全ては水の泡と化す。大尉は撃たれて死に、おそらくは自分も後を追う羽目になるだろう。 「三、二――」 ええい、ままよ。半ばヤケクソ気味な勢いで、ローチはスイッチを押す。 「一――!?」 プランB、発動。格納庫の扉の向こう、滑走路よりも先にある給油所で、派手な火の手が上がった。爆発、炎と衝撃のカーニバル。その場にいた誰もが、何事かと後ろを振り返った――今だ! C4爆弾を遠隔操作スイッチを放り投げて、ローチはバッと物陰から身を乗り出す。ACRのセレクターをフルオートにセット、引き金を引いて射撃開始。デタラメな照準、しかし突如として降り注ぐ 銃弾の雨は、一瞬の隙を見せた敵兵たちにとって脅威と呼ぶほかなかった。何名かはウッと短い悲鳴を上げて倒れ、大部分は驚き怯え、反撃もままならないまま逃げ出そうとする。 直後、格納庫内に、ローチのACRとは異なる銃声が響き渡る。拝借したAK-47の連続射撃音、マクダヴィッシュが反撃に転じたのだ。二人の一斉射撃を受けた敵軍は、数で勝っているにも関わらず片 っ端から薙ぎ倒されていく。 やった、うまく行った――階段を下りて、ローチは上官と合流。ついでに空になったマガジンを投げ捨て、予備のマガジンを差し込み、コッキングレバーを引く。息を吹き返したACR、銃口を前に構 えて彼はマクダヴィッシュに指示を仰ぐ。 「ローチ、ついて来い! 駐機されてる敵機を盾に、滑走路を突っ切るぞ!」 「了解!」 銃声、爆音、悲鳴、怒号。吹雪のみが唸りを上げていた雪山の空軍基地は、戦場の姿へと一変する。 敵の妨害射撃を切り抜け、銃撃に巻き込まれて引火したMiG-29の爆風に晒されそうになりながら、二人は敵地の中を突き進む。 「GO! GO! GO!」 上官に言われるまでもなく、ローチはひたすら前を行く。途中で時折振り返って、なおも追撃を仕掛けてくる敵に向かって五.五六ミリ弾を叩き込む。怯んだ隙に走って走って、背中を撃たれる恐 怖に打ち勝てなくなったらまた振り返って交戦するの繰り返し。 先を行くマクダヴィッシュも、考えなしに逃げ回っていた訳ではない。滑走路の向こう側、基地の外に繋がる斜面は一気に飛び降りれば、自分たちを回収するヘリとの合流地点に向かうことが出来 る。部下と共に雪と氷でコーティングされた斜面を滑り降り、すぐさま振り返って迫る敵を撃つ、撃つ、撃つ。 敵も黙って撃たれる訳ではなかった。彼らはスノーモービルを持ち出し、二人一組となってローチたちの進行方向に先回りを図る。が、一両が雪上を駆け進んでいたところで、小屋の影に潜んでい たマクダヴィッシュの強烈なピッケル攻撃を浴び、ひっくり返った。投げ出された敵兵はあえなく死亡してしまったが、彼らが乗ってきたスノーモービルは健在だ。 「ローチ、こいつを奪え。一気に脱出だ!」 「俺スノーモービルなんか運転したことありませんよ!?」 「だったら尚更、いい機会だ!」 無茶苦茶だ――しかし、徒歩よりはるかに速いには違いない。結局座席に跨り、上官を後ろに乗せてローチはアクセルを回す。元の持ち主を殺されたにも関わらず、スノーモービルは元気よくエン ジンを吹かし、猛然と雪の上を加速していった。機械に感情はないはずだ。 「キロ6-1、第一回収地点には到達不可能! 予備の回収地点へ向かう、オーバー!」 「こちらキロ6-1、了解。第二回収地点に向かう、アウト」 通信機に向けて怒鳴る上官をよそに、ハンドルを握るローチの思考は運転に精一杯だった。頬を痛いほどに叩く風、耳元で唸る空気の流れていく音、吹っ飛んでいく雪山の風景。スノーモービルは アクセルを吹かせば吹かすほど速度を増し、白銀の世界を駆け抜けていく。 パッパッとその時、はるか正面で地面に降り積もった雪が弾けるように舞うのが見えた。すぐに視界の片隅に流れて消えていってしまう、そのくらい一瞬の出来事だったが、間違いなく見えた。サ イドミラーに目をやれば、同じく銀の世界を駆け抜け追って来る敵兵たちのスノーモービルが一両、二両とチラつく。くそったれ、追撃してくるのか。安全運転だけで精一杯なのに。 「大尉、後ろ、後ろ! 後ろに敵!」 「見えてるよ、前を見てろ」 突き進むスノーモービルのすぐ傍らを、弾着が駆け抜けていく。それでも後席の上官は冷静とものん気とも取れる回答。グロック18Cを持ち出し、片手で構えて敵に向かって弾をばら撒く。さすがに 照準の余裕はない。とにかく撃ちまくって、敵をビビらせ射撃をやめさせるほかなかった。 悪いことは、さらに続く。歩兵の持つ小口径の弾丸は雪を舞い散らせる程度だったのだが、背後から突如降り注いだ炎の矢は進行方向にあった木を吹き飛ばし、叩き折った。咄嗟にハンドルを切って 回避するも、耳元で唸る風の声に混ざる形で聴覚に飛び込んできたのは、ヘリのローター音。味方であると思いたかったが、先ほどのロケット弾射撃はどう見ても誤射ではなく狙ったものだ。 「後方にハインド! ローチ、スピード上げろ! GO! GO! GO!」 分かってます、分かってますからあんまり怒鳴らないで集中できない! 泣き出したくなる衝動に駆られ、ローチはひたすらスノーモービルの操作に集中する。背後より迫るヘリは、Mi-24Dハインド。 生身の人間二人に攻撃ヘリまで投入とは、よっぽど敵さん頭に来たらしい。何でだよ、ちょっと落し物を拾いに来ただけなのに。 もちろん、嘆いたところで状況は変わらない。降り注ぐロケット弾と銃弾の雨、被弾しないのが不思議なくらいの攻撃を掻い潜り、彼らを乗せた鋼鉄の馬は雪山の白い斜面を乗り越える。妨害に現 れた進路上の敵もひき殺すような勢いで加速し、突き進んでいたところで、今度は斜面を下りに入っていく。 速い――たまらず、ローチはアクセルを握る手の力を緩めた。しかし、それでもスノーモービルは加速していく。坂道を下っているのだから、当然ではあるのだが――速い、速い、速い、速過ぎる! どうするんだこれ、止まれないぞ! 向こうは、崖だ! 「ローチ、まっすぐだ! この先が回収地点だ!」 「はぁ!? なんですって!?」 「まっすぐだ!」 落ちるでしょうが! 上官からの指示に、しかしローチはどの道逆らえない。今更ブレーキをかけたところで、間に合うはずもない。そのくらいスノーモービルは加速しきっており、もはや止まるこ とを知らない暴れ馬と化していた。敵の銃火も途絶えてしまった。完全に振り切ってしまったのか、この先はもう崖であることを知っていたのか。 バッと、彼らを乗せたスノーモービルは崖を飛び越えた。加速していた車体は慣性の法則に乗っ取り、地面を離れてなお前に進む。 あ、これ、ひょっとしたら助かるんじゃないか。ほんの一瞬、胸のうちでローチは生存の可能性を見出した。なるほど、マクダヴィッシュ大尉は最初からこれを目論んでこのルートを。ごめんな さい大尉、俺大尉のことを勘違いしてました――崖の向こう側、地面に辿り着くほんの五メートルほど手前で、スノーモービルは下を向き始める――くそったれ、信じた俺が馬鹿だった! 「落ちるぅ!!」 「落ちねぇよ!!」 あぁ!? ともはや生きることを諦めヤケクソになった彼が顔を上げる。視界に映ったのは、人。こっちに手を差し伸べる、人間の男だった。いや、本当に人間なのだろうか。こいつが人間であると するなら、何故こちらは重力に引っ張られて絶賛落下中だと言うのに、こいつは宙に浮いていられるのか。 されど、全ての疑問は後回し。ハンドルから手を離し、ローチは突如現れた空中浮遊する男が差し出した腕を掴む。男はそれだけでは飽き足らず、後席にいたマクダヴィッシュにも手を伸ばしていた。 何も言わず、彼は男の差し出す手を掴み、落下現象から脱出。スノーモービルだけが見えない腕に引っ張られるようにして、底も見えない崖の下に落ちていった。 「キロ6-1、二人の回収に成功した。これから連れて行く!」 「キロ6-1了解。ティーダ1尉、早めに頼む。燃料が限界近いんだ」 あいよ、とヘリとの交信を終えた空中浮遊の男は、次に自分が抱える二人の兵士を見た。 「……妹へのお土産にしちゃあ、ちょっと無愛想だな。礼の一つも言ってくれよ」 「――すまない、お前の言うとおりだ。助かった、ありがとう。管理局の魔導師か?」 「お、分かる?」 マクダヴィッシュは彼のことを何か知っているようだ。しかし、ローチの方は、もちろん何がなんなのかさっぱりな状態である訳で。 何でもいいから早く下ろしてくれ――眼下に広がる雪の大地、白一面の銀世界は、無表情に彼を見つめていた。 戻る 次へ
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Member only ページのメインメージです。 Custom Class(2/3) FAメンバーが構想するそれぞれのプレイスタイルに基づいたカスタムクラスなどを公開する場。 兵装・装備・Perkはもちろん、自分が考えるおすすめキルリストークを載せよう! Key Point(2/4) MAPによっては超絶角見ができるところ、ウマウマポイントが存在します。 ”皆に公開できる範囲”のポイントは載せちゃって下さい。 MAP愛称などもあります。 <<operation_room>>(5/24) クラン戦に挑むにあたって、話し合いの上で決定した作戦やMAP名称 TIPs(工事中) CoD4の豆知識。 today - total -
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SIDE 時空管理局 機動六課準備室 五日目 1103 第四一管理世界"キャスノー" ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 雪を踏みしめ、前を向いて歩く。単純な動作の繰り返し。それでも、吹き付けてくる風と雪は彼らの身体から体温と体力を奪っていった。鍛えられた兵士であるからこそ、まだ何とか耐えられて いるのだ。常人であればあっという間に音を上げ、動けなくなって死を待つばかりだったことだろう。 防寒具と野戦服で身を包んでいたジャクソンは、背後を振り返る。仲間を置き去りにしないよう、時折後ろを確認するようにしていた。大丈夫、二人ともついて来ている。ギャズもグリッグも特 に遅れている様子もなかった。顔についていた雪とも氷とも言える冷たい物体を叩いて落とし、彼はもう少しだ、と後方の仲間に腕を振って合図した。 何も、彼らは厳しい冬山で登山を行っている訳ではない。否、登山と言えば登山なのだが、目的は頂上に昇って達成感を味わうことではなかった。登山は目的地に辿り着くための手段に過ぎない。 それは、手に持つカービン銃が証明していた。登山が目的であれば、必要ないものだ。M4A1と言う。米軍が正式採用しているもので、ジャクソンの持つそれにはダットサイトとフォアグリップ、さ らにサイレンサーも装備してあった。誰を撃つのか? 敵を撃つのだ。何のために? 救出のために。 どれほど斜面を登っていたかも忘れかけた頃になって、ふと、ジャクソンは吹雪いて白く染まりがちな視界の奥に、何かを見出した。赤い光が、点いたり消えたりしている。間違いない、と彼は 思った。明らかな人工物、目標だ。背後の仲間に向けて振り返り、見えたぞ、と合図。後方を追従していた二人の兵士は顔を見合わせ、ペースを上げた。 二人を待つ間、ジャクソンは一旦腰を下ろして、双眼鏡を持ち出す。肉眼で目視した人工物の方向をレンズ越しに改めて見れば、思いは確信に変わる。パラボナ・アンテナを掲げた施設、雪山の ど真ん中にある。ここからではそれだけでも巨大に見えるが、双眼鏡が捉えた先には、さらに奥にも建造物が立ち並んでいる。ヘリポートらしい広場もあった。人影はまったく見えないが、この吹 雪と寒さだ。特に用事もないなら、好き好んで外に出るはずもない。 「ジャクソン、どうだ」 傍らにやって来たギャズに、双眼鏡を譲る。同じものを視認した彼は「あれだな」とジャクソンの確信にまったく誤りがないことを確認する。一方、同じくやって来たグリッグはいささか疲れた 模様。どうした、と批判気味な眼で見れば、黒人兵士がM240軽機関銃を杖のようにして雪の上に腰を下ろす。 「くそったれ、たまんねぇよ。寒すぎるぜ、尻が冷たい」 「ビールは冷えてる方がいいんだろ?」 「冷えすぎだ馬鹿。胃袋凍ったら飲めなくなるだろ」 それもそうか、と頷く。もっともビールを飲めるかは、ここから生きて帰れたらの話だが。いや、そもそも『アースラ』にビールなんてあっただろうか? まぁいい。帰ったら確かめよう。思考 を中断し、立てよ、とジャクソンは古い付き合いの戦友に促す。へいへい、と応じる程度にはまだ余裕が残っているらしい。疲れた表情は見せかけだろう。 ずるっ、と立ち上がりかけたグリッグが足を滑らせた。運悪く、彼が踏ん張った場所は先にジャクソンやギャズが歩いて踏み固められていた。それだけなら転んで終わりだったのだが、彼はます ます運が悪い。あろうことか、斜面をそのまま滑っていってしまった。グリッグ! 咄嗟に手を伸ばしても届くはずがなく、よりによって黒人兵士は目標の人工物の方角に向けて滑り落ちていった。 「いきなりトラブル発生かよ、先が思いやられるな」 「あいつ、ミサイルの発射を止める時も自分だけ別の場所に落ちたよな……」 顔を見合わせ、元SAS隊員と元海兵隊員はため息を吐く。昔話もそこそこに、彼らも斜面を滑って降りることにした。滑り落ちたグリッグが、施設の警戒ラインに見つかっていないことを祈りな がら。ここで見つかってしまっては、全てが始める前に終わってしまう。 氷と雪、風と永久凍土が大半を占めるこの世界で、ひっそりと作戦は開始された。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第10話 The Gulag / 脱出 前編 SIDE Task Force141 五日目 0742 ロシア ペトロパブロフスクの東40マイル ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 雪と風、寒さに晒されているという点ではこちらもまったく同じだった。図らずも、両者の目的は『重要人物を救出する』と言う点においても一致していた。 もっとも、それを今のローチが知る由はない。異世界の出来事など、今の彼にはどの道無関心なものだった。何より寒い。どうして輸送ヘリがこれなんだ、と悪態を吐き捨てたい。 Task Force141は、超国家主義者たちが石油採掘リグを占拠して設置した対空ミサイルの無力化に成功した。現在は南米で得られた「マカロフは囚人627号と言う人物を憎み、また恐れている」と 言う情報を元に、ロシアの強制収容所に向かっている。例の囚人は、その施設に収監されているとのことだ。ロシア政府に釈放するよう求めたが、事前にこちらの狙いを察知した超国家主義者たち は収容所を先に抑えている。任務は彼らを排除し、囚人627号を救出すること。 それにしても――しつこいくらいに、ローチは思う。寒い。彼を乗せたOH-6は本来観測や偵察に用いられる小型ヘリであり、一応人員も乗せることは出来るが、コクピットのすぐ横、つまり外に 座席を搭載してほとんど無理やり乗せているようなものだ。外気に晒される故、寒さは風を纏って襲ってくる。早く目的地に着いてくれ、と願わずにはいられない。 《ホーネット2-1、こちらジェスター1-1だ。支援に来た。対地ミサイルで武装している》 《コピー。ジェスター1-1、目標は正面の監視塔だ。やっちまえ》 おや、とローチははるか向こう、大空の彼方より何かが近付いてくるのに気付く。頭のすぐ上にあるローター音でこれまで聞こえなかったが、よく耳に神経を集中してみれば、何かが聞こえる。 遠雷のような轟き、雷? それにしては空は、悪天候とは言っても雷が落ちてくるようなものでもない。音の方向に注視していれば、何者であったのかすぐに理解できた。米海軍航空隊の戦闘機だ。 機種はF-15N、空軍の名戦闘機F-15を海軍向けに仕立て直したものだ。 海軍ってF-14とかF/A-18じゃなかったっけ――疑問をよそに、二機の鋼鉄の翼は編隊を組み、Task Force141を乗せたOH-6編隊のすぐ真下を飛び去っていく。この作戦は、Task Force141の指揮官 であるシェパード将軍からの要請を受けた海軍の支援も加わっているのだ。彼らは先行し、進路上に存在する邪魔な敵を蹴散らすことを主な任務としていた。 二機のF-15Nは、胴体下に抱えていたミサイルを発射。直後、ドッとアフターバーナーを点火させて加速し、左に急旋回して離脱していく。鮮やかなものだ、とローチはパイロットたちの操縦を褒 め讃える。出来ることなら、俺もあっちがよかった。戦闘機のコクピットは与圧が効いて、きっと暖かいだろう。さすがに旅客機のようにコーヒーは出ないだろうが。 発射母機が離脱に入った後も、ミサイルはまっすぐ目標に向かって突き進んでいた。狙いは、凍りつきがちな北の海に突き出るようにして浮かぶ岬、そこにあった灯台。対空砲もあったのだろう。 ミサイルは目標には直撃せず、岬の方に命中した。それでよかった。爆風と衝撃を受けた大地は根元から崩れ始めて、冷たい海水が灯台も対空砲も呑み込んでいく。あそこにいた敵兵たちは、きっ と何が起こったのか分からぬまま死んだことだろう。 《ホーネット2-1、進入経路クリア。幸運を》 《了解、支援に感謝する》 OH-6のパイロットは二機のF-15Nに礼を言い、崩れ落ちた岬の上空を通過。最終的な着陸地点である、強制収容所へ向かう。 準備しろ、と隣に座っていたマクダヴィッシュ大尉の指示。言われるがままにローチは機内に積んであったM14EBR狙撃銃を持ち出し、弾丸装填。 雲を突き抜け、海を越えて、ついに強制収容所が彼らの視界に入る。収容所、と言うよりはまるで城だった。これより我々は攻城戦を開始する、とでも言われた方が納得できそうだ。事実、そこ はかつて城だった。頑丈な城壁と、本物の地下牢を持っていた歴史ある建造物で――ろくな歴史ではないな、とはマクダヴィッシュの言葉だ――幾度も冬を乗り越えてきた。ロシアの歴史を、この 雪と寒さの世界からじっと眺めていたに違いない。現在では、何度も述べるように強制収容所となっているが。何故ここが収容所となったのかは分からない。地下牢があるから、と言う理由はもっ ともらしくはあるが、そこまでする意味は何なのか。"囚人627号"とやらは、それほどの凶悪犯罪者なのだろうか。マカロフにとって憎むべき敵であり、ロシア政府にとっても凶悪な犯罪者? 思考中断。ローチは目を見張った。彼らを乗せたOH-6は城の上空に到達したが、待っていたのは古城の見張りの塔を活用した対空陣地だった。古めかしい塔の上に、現代兵器である対空ミサイル が配置されている。なんてアンバランスな、と思うが、幸いだったのはどのミサイルサイトも、まだブルーのシートがかけられていたことだ。すなわち、敵は準備不足と言うことだ。 「安定させろ、ミサイルの操作員をやる」 「了解した」 マクダヴィッシュが、ヘリのパイロットに告げる。OH-6は塔の上空でホバリングに移行し、彼らに安定した射撃の土台を提供する。安定とは言っても、ふらふらと揺れてはいたが。その間にも、突 然の敵機襲来に驚いた超国家主義者たちが続々と姿を見せ、対空ミサイルにかけられていたシートを引き剥がしていた。 ローチは、揺れる座席の上でM14EBRを構える。狙撃スコープの向こうに敵兵を捉えた瞬間、引き金を引く。銃声と、肩に押し当てていた銃床に伝わる反動。薬莢が飛び出し、ミサイルの発射準備 を行っていた敵兵はひっくり返って動かなくなった。他の者はミサイルを諦めて小火器での抵抗を試みようとするが、マクダヴィッシュの狙撃がそれすら許さない。一発、二発と銃声と共に放たれ る正確な射撃が、塔の敵を次々と撃ち倒していった。 一つ目の塔を制圧し、二つ目へ。こちらは攻撃が後回しになったせいで、ミサイルの射撃準備も進んでいた。まだロックオンはされていないものの、天を睨む槍は小賢しくも目の前でホバリング 飛行を行うハエを叩き落とさんと、ゆっくりと回転を始めて――直後、どこからか矢のような物体が塔に突っ込むのが見えた。爆発、対空ミサイルは塔もろとも木っ端微塵に吹き飛ばされる。海軍 の支援攻撃、あのF-15Nの編隊の仕業に違いなかった。 突然、機体がガッと揺れた。まるで大波に晒された小船のように、強烈な横風を浴びてしまった。高鳴る警報、パイロットは操縦桿を必死に操り、何とか機を立て直す。何だいったい、と顔を上 げれば、飛び去っていく機影が見えた。間違いない、F-15だ。 「シェパード将軍、海軍に攻撃をやめろと言ってやってください! 今のは危なかった!」 「努力しよう、マクダヴィッシュ大尉。しかし、連中は我々ほど例の囚人に価値を感じていないようだ」 マクダヴィッシュは怒りの矛先を、後方で指揮に当たっているシェパード将軍に向けた。海軍に支援を要請したのは彼だった。ところが、返ってきた通信はあまり期待出来ない。本土を時空管理 局に蹂躙されている米海軍にとってみれば、Task Force141への支援は本来後回しか無視してしまうべき代物なのかもしれない。 「アメ公め。いい奴らだと思ってたんですがね!」 「ゴースト、お喋りはその辺にしておけ。聞かれるぞ」 副官ゴーストの怒りはもっともだが、あまり不満を漏らしていては支援の戦闘機は帰ってしまうかもしれない。まさかあのミサイルが今度はこっちに向けて撃たれるとは思わないが。ともかくも 支援は必要だった。対空ミサイルはまだ破壊し尽くされてはいない。 空からの銃撃と、ミサイルによる攻撃はしばらく続けられた。敵軍の対空砲火がいい加減やる気を無くし始めたところで、ようやくTask Force141は大地へと着陸を果たす。OH-6によるガンポッド 掃射の支援は続けられるが――ヘリの座席から降りて、地に足を着けたローチは銃を持ち換える。M4A1。この程度で、敵が引っ込むとは思えない。空からでは制圧し切れなかった奴らが、まだ城の 奥に潜んでいるはずだ。 「GO! GO! GO!」 マクダヴィッシュを先頭に、隊は前進を開始。目標は城のどこかにいると思われる、囚人627号の奪取。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 五日目 1110 第四一管理世界"キャスノー" ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 シャーベットのようになった雪の斜面を滑って、ジャクソンとギャズは先に滑り落ちてしまったグリッグを追う。敵に見つかっていないかが心配だったが、幸いにも天候は彼らの味方となってい た。深い霧が出始めていたのだ。五メートル先の人影だって見分けがつかないほどの白い壁が、侵入者たちの姿を覆い隠してくれる。 「いきなり酷い目にあったぜ、あぁ畜生」 「死んでないだけマシだな」 下った先で、グリッグと合流。どの道この斜面は滑って降りる予定であったからいいのだが。手を差し伸べて助け起こし、その段階でジャクソンはハッと顔を上げ、身構えた。霧の向こうに、誰 かいる。無言でグリッグにそれを伝えて、後ろのギャズにも同様のことを伝えた。彼らはそれぞれ頷き、各々銃を構えて霧の向こうの影に注視する。 いきなり銃撃戦は避けたいが――雪で覆われた真っ白な地面に伏せて、M4A1を構える。やるなら先に撃った方がいい。しかし、こいつは何だ? 人のようにも見えるが、もしかしたら野生生物では ないのだろうか。この世界にそんなものはいただろうか。ブリーフィングでは言っていなかったが。 影が、こちらの存在に気付いた様子はない。ゆっくりと歩き、近付いてくる。霧の壁もいよいよ薄くなる距離になって顔の識別が出来るようになった頃、ジャクソンは即座にM4A1の銃口を敵に向 け、引き金を引いた。サイレンサーが銃声を掻き消し、放たれた弾丸はそれでも殺傷能力を維持したままに標的を貫く。 彼が撃ったのは、二足歩行のロボットだった。傀儡兵と呼ばれる魔法技術で開発された兵器の一種。おそらくはグリッグの姿を霧の奥から見つけて、しかしそのままでは識別できなかったために 近付いて来たのだろう。頭が弱点なのは人間と同じで、五.五六ミリ弾一発で沈黙してしまう。地面を覆う雪のおかげで、倒れた時の機械音も響かなかった。 ほっと息をつくのも束の間、"死体"がここにあってはまずい。グリッグが手早く傀儡兵を引きずって、適当に雪をかけてカモフラージュした。近寄れば分かるが、遠目に見れば盛り上がった岩に しか見えない、と思いたい。どの道時間をかける訳にもいかなかった。目的は死体の隠蔽ではない、クロノの救出だ。 「あのパラボナ・アンテナが最初の目標だな」 確認するようなギャズの言葉に、ジャクソンはそうだ、と肯定で返す。あれを止めなければ、今度は俺たちも一緒にこの収容施設に放り込まれてしまうだろう。ミイラ取りがミイラに、だ。 施設の中でも特に大きな存在感を持つアンテナは、この収容施設の眼とも言うべき存在だった。早い話が、レーダーだ。それも魔力には機敏に反応してみせる高性能な代物で、彼らが属する機動 六課準備室の主要メンバーたちでは――室長の八神はやてを筆頭に、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、四人の守護騎士たち――あっという間に見つかってしまう。彼女らの魔法をもってすれ ば強引に力技で突破するのも可能ではあろうが、その時救出対象であるクロノの身の安全はどうなるか。最悪、奪取されるくらいならと殺されてしまうかもしれない。 そこで、ジャクソンたちの出番だった。魔力資質をまったく有しない地球の兵士たちが先行して施設に潜入し、レーダーを停止させる。これで六課の主要メンバーたちは接近することが可能にな るはずだ。戦闘能力に優れる彼女らが派手に暴れて敵の注意を引き付け、その隙にクロノを見つけ出し、救出する。いざとなれば場当たり的な対応(プランB)もあり得るが、とにかく今は決めた手筈 の通りに進めていくべきだろう。 施設の外柵に辿り着いた彼らは、まずは周囲に監視の目がないか確認。とりあえず今は誰も見ていないのを確認すると、ジャクソンとグリッグは周辺警戒。柵を破るのはギャズの役目だ。SAS出身 の彼は、潜入任務や敵地内の偵察に就いていたこともある。適材適所、今は彼に任せよう。 外柵は敵の侵入を防ぐのが目的であるに違いないが、ただ柵を設けているはずもない。見たところ電流は流れていないようだが、よく眼を光らせれば、細い銅線が引っ張ってあるのが分かる。柵 を破ったり乗り越えても、銅線の存在に気付かず足を踏み入れれば間違いなく引っ掛けて警報が鳴る。そうならないよう、ギャズはあらかじめ銅線をジャンパーさせて、ニッパーで切った。これで 侵入は悟られない。柵もいつかのミサイル発射阻止の際にやったように、液体窒素の入ったスプレー缶で凍結させ、引っ張って破った。ちょうど人一人が腰を屈めて入れるくらいの大きさの穴が出 来上がり、彼のOKのサインでジャクソンたちは施設内に入る。 壁から壁へ、物陰から物陰へ。派手に暴れて突き進む方が、案外簡単だったかもしれない。しかし彼らの任務は潜入であり、例え目の前に敵がいようと触れず触らず見つからず、極力無視して進 んでいく。 その時、先頭を行くジャクソンは動きを止めた。背後の味方に対して左手を握りこぶしにして見せて、停止の合図。パラボナ・アンテナは頭上にあり、彼らはその根元に来ていた。アンテナと併 設されているコンクリートの建物を見つけ、そこから太いケーブルが何本も伸びているのを確認。ここだ、レーダーの制御室。扉はあるが、氷で閉ざされたようにして開く様子はない。よくよく目 を凝らせば、扉のすぐ傍に赤いランプがあった。おそらく、扉の開閉を制御しているのだろう。 ギャズ、と声に出さずにトラップ解除の専門家を手招きし、扉を指さす。「開けられるか?」と目で訴えるが、ギャズは首を横に振った。電子ロックされており、開けるにはパスコードが必要だ。 代わりに彼は、自身の愛用小銃であるG36Cを掲げて、第二案を提案。しかし今度はジャクソンが首を振る。要するに、電子ロックを銃弾でぶち壊す。いくらサイレンサーがあるとは言っても、破壊 すれば敵を呼ぶ可能性がある。 じゃあどうする、とグリッグが無言の会話に横から割り込む。止まっていてはいずれ敵が来るかもしれない。ノックでもするか? と彼は提案するが、無論本気ではなかった。 雪の白と寒さが全てを支配する空間で、彼らはやむを得ないか、と電子ロックの破壊を真面目に考え出したところで、天佑が舞い降りた。何の用事があったかは定かでないが、突然、閉ざされてい た制御室への扉がピ、と電子音を鳴らして開かれたのだ。ガチャリ、と開かれた扉の奥から、管理局の武装隊の兵装をした男が出てくる――ロボットではない。監視用の傀儡兵ではなく、生きた人間 だ。 ――八神、確認するぞ。潜入した先で、もし強硬派の″人間″と遭遇した場合は……。 ――射殺を許可する。施設を警備する者はどの道犯罪者にも近い傭兵ばかりや。 脳裏に、出発直前のブリーフィングではやてと交わした会話がジャクソンの脳裏をよぎる。目の前の男はこちらに気付いた様子もなく、寒さに顔をしかめながら懐より煙草の箱を持ち出していた。 もし、ここで射殺すれば扉には難なく入れる。眼前に捉えた武装隊らしい男も、情報通りなら傭兵であって正規の局員ではない。彼らの多くは犯罪に、もしくは犯罪スレスレの行為に手を染めてお り、こんな状況でなければ刑務所行きのような奴らばかりだという。 しかし、人間だぞ。俺が引き金を引けば、奴は死ぬ。射殺許可を出した、八神の名の元に。俺はあの少女の手を、間接的にでも血に染めることになる――自分自身は、どうでもよかった。ジャク ソンは元より兵士であり、実戦を何度も潜り抜けてきた。戦争とはいえ、とっくに殺人という境界線は超えている。だが、はやては違う。あの少女は、本来なら家族を持った優しい女の子のはずだ。 鈍る決断、焦る思考。それらを瞬時に蹴散らし、彼に行動を起こさせたのは、生存本能だった。武装隊の男が何気なくこちらに振り返り、そしてあっ、と声を上げていた。煙草の箱を投げ捨て、 制御室の扉の奥に消えようとする――直前、ジャクソンは走った。武装隊の男に体当たりをかまし、彼を転倒させたのだ。苦痛と驚きで表情を歪める男は、転んだ姿勢のままで肩から下げていたス トレージデバイス、武装隊の標準装備である武器を取り出そうとする。咄嗟にジャクソンの足が男の腕を踏みつけてそれを阻止し、サイレンサーが装着されたM4A1を構える。迷うことなく引き金を 引き、一発。薬莢が弾けて飛んで、放たれた銃弾で頭を撃ち抜かれた武装隊の男は死亡した。 やっちまったな――元海兵隊員の胸に、感情がよぎる。今更後悔などはしなかった。ただ、目の前の事実に彼は、どうしようもない虚無感を覚えた。俺は結局、兵士でしかない。 「ジャクソン?」 「――行こう。制御室はたぶん、すぐそこだ。死体を隠して進む」 後にしよう、とギャズの声を聞いて、彼は元の思考に切り替えた。ぐずぐずしていては、作戦に支障が出てしまう。 彼の言うとおり、レーダーの制御室はもうすぐそこにあった。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 五日目 1135 第四一管理世界"キャスノー" 衛星軌道上 次元航行艦"アースラ″ 八神はやて三等陸佐 ≪"鳥″より"鳥籠"、応答されたし≫ 「来たよ、はやてちゃん!」 雪と氷の星の衛星軌道上で待機する次元航行艦"アースラ"の艦橋で、主任オペレーターのエイミィ・リミエッタの声が飛ぶ。待ち望んでいた潜入部隊からの通信が、ようやく飛び込んできたのだ。 スピーカーに、とただちに通信に応じる構えを見せたのは、八神はやて。機動六課準備室の室長であり、現在の"アースラ"の実質的な指揮官だった。 "鳥"とは第四一管理世界"キャスノー"の監獄に放たれた潜入部隊、ジャクソン、グリッグ、ギャズからなる三人の兵士たちのコールサインだ。"鳥籠"とは無論、母艦である"アースラ"を示す。ジャ クソンたちがこのコールサインを使用して無線封鎖を解除し、通信を送ってきたということは、彼女らにとって目の上のコブに等しい収容施設のレーダーを無力化に成功したという意味である。つま り、クロノ・ハラオウン提督の奪還作戦はまず第一段階が成功したということだ。にも関わらず、はやてはどことなく、スピーカーに切り替えて聞こえてくるジャクソンの声がどこか、暗く気落ちし たもののように感じた。 「こちら"鳥籠"――レーダーの無力化に成功したんやな、ジャクソンさん?」 ≪その通りだ。今、レーダーの制御室にいる。奴ら、通信波の探知もここで行っていたらしい。今、ギャズがレーダーと合わせてそっちの電源もシャットダウンさせている≫ 「よーし、ひとまずは第一段階クリアやな。何か問題は? あるんやろ、その様子やと」 スピーカーが、一瞬の沈黙。躊躇うような間を見せた後に、ジャクソンの声がいかにも言い辛そうな雰囲気を持って艦橋に響き始めた。 ≪……すまん、八神。すでに数名、射殺した。正規の局員ではないようだ、グリッグが調べたがみんなIDカードを持っていない。情報通り傭兵だな≫ 「そう、か…」 ≪なぁ、八神のお嬢ちゃん。ジャクソンを責めないでやってくれ≫ いきなり、割り込む形でスピーカーにジャクソン以外の声が響いてきた。この声はグリッグだ。 ≪こいつの判断は間違っていなかった。制御室に侵入する時も、中の奴らを排除する時も、射殺しなきゃ俺たちがやられていたんだ≫ 「あぁ、分かっとるよ。そもそも、射殺許可を出したのは私や。何も問題はない」 ≪……八神、本当か?≫ ジャクソンの声が、疑問に染まっていた。あいにく潜入部隊は誰も魔力適性を持っていないため、いわゆる念話によるモニターを介しての通信は出来ず、音声のみとなっている。だからこそ、魔力 反応を探知するレーダーに捕まらない地球の兵士たちが潜入部隊として選ばれた。しかし、きっと通信機の向こうで彼の表情は、声と同じく疑問の二文字で染め上っていたことだろう。 はやては、問いかけに対し、特に躊躇も見せずに答えた。「本当や」と、ただそれだけ。その一言が、より一層兵士の持つ疑問を大きくさせるのを承知の上で。 ≪撃ったのは俺だ。俺たちは兵士だ、今更敵の兵士を撃つことに躊躇いはない。けど、君はどうなんだ? 射殺許可を出した君は≫ 「哲学の問題なら後にしてや、ジャクソンさん」 ≪答えてくれ。任務に集中できなくなる。俺は、君の下した射殺許可の下に敵の傭兵を撃って殺した。いいか、撃ったのは俺の判断だ。だが許可を出したのは君なんだ≫ 困ったなぁ、とはやては苦笑いを浮かべた。口元は歪むが、眼はどこか悲しいものを感じさせるほどに澄んでいた。 決意、いや、覚悟か。まだ一〇代も後半に入ったばかりのこの少女は、背中に背負うものの重さを、十分に承知していた。そして、それを決して普段は表に出さないことも誓っていた。 「あんな、ジャクソンさん。私の、"夜天の書"の話はしたっけ」 ≪前に聞いた。前は"闇の書"と言って、過去にいくつも世界を滅ぼしたと≫ 「そう。私は、その呪われた過去も、みんな背負っとる。この言葉の意味、分かる?」 ≪……今更、人を何人か殺めたところで気にするものでもない?≫ 「ブブー。外れ、大外れや」 思わず毀れた、場違いな擬音に艦橋にいた"アースラ"クルーは思わず吹き出し、皆が揃って苦笑いを浮かべていた。視線がはやてに集中し、彼女はなんとなく気恥ずかしい気分になりながら、一度 咳払いして気分を変える。そう、今は真面目な話なのだ。 「管理局は今、たぶんとてつもない過ちを犯しとる。よりによって証拠も出揃わないうちから、ジャクソンさんたちの国と戦争や。しかも、反対するクロノくんを始めとした慎重派は軒並み逮捕や更 迭、解任してな。このままやったら、大勢死人が出てしまう。それも、何万人単位で――せっかく"闇の書"は暴走の危険を取り払われたのに、これじゃ意味ないやん」 ≪しかし、それと君が簡単に射殺許可を出したのと何の関係が≫ 「まだ分からん? 大勢を生かすために、私は必要なら少数を殺す。その覚悟をもって許可を出した」 本気だった。およそ、少女が持つものとは思えない鋭い眼光が、それを物語っている。無論、躊躇いや躊躇がない訳ではない。いくらアウトローの傭兵といえど、容易く命を奪っていい許可など下 す訳にはいかない。はやても、その程度の倫理観を失った訳ではない。命をやみくもに奪う者は、やがてやみくもに奪われる。 それでも、このままでは更なる犠牲が出てしまう。慎重派の中でも提督という大きな権限を持つクロノを奪取しなければ、地球への攻撃はいつまでも終わらない。一の犠牲を躊躇した結果、百の犠 牲が生まれてしまうのだ。はやては、百の犠牲を防ぐために、射殺許可を出した。命を奪うという許可を、自分の名の下に。 ≪……八神には、普通の女の子であって欲しかったんだが≫ どこか寂しそうな、ジャクソンの声。彼はすでに軍人であり、そして兵士だった。命を奪うという行為を仕事にするという、ある種の一線を超えた人間だ。彼は、はやてにそうなって欲しくなかっ た。自分の命を救ってくれた、八神家の当主は、あくまでも八神はやてという、普通の女の子として。 「あいにく、"夜天の書"の主となった時に、普通なんてのは無理やと思い知ったんや。それに」 ≪それに?≫ 「もし、私の躊躇がジャクソンさんを殺すことになったら、シャマルが泣く」 ≪その名前を出すなよ――分かった、間もなくギャズがレーダーの電源をカットする。そちらは頃合いを見て、攪乱部隊を出してくれ≫ 「了解。幸運を。通信、アウト」 さて、いよいよ後戻りは出来んかな――ふ、とため息を漏らして、はやては天を仰ぐ。もう、自分の名の下に射殺許可は出て、それは実行されたのだ。今更、振り返るつもりはない。 「リインフォースに怒られるかなぁ、やっぱり」 今はもういない融合騎のことが脳裏をよぎり、彼女は思わずクスッと笑った。自虐的なものではあったが。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 五日目 1141 第四一管理世界"キャスノー" ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 「肝っ玉の太い女の子だなぁ、ジャクソン」 「ああ、まったくだ」 通信機のスイッチを切って、ジャクソンはグリッグに苦笑いで言葉を返す。 「よし、レーダーをカットするぞ」 ちょうどその時、制御室のコンソールと向き合っていたギャズが、いよいよレーダーの電源をシャットダウンさせる段階に至っていた。スイッチを押して、電源をオフに。これで、この収容施設 はその防衛においてもっとも重要な"眼"を失ったことになる。 しかも、元SAS隊員の手際は鮮やかなものだった。レーダー波の送信停止を悟られないため、テスト用の信号を送ってあたかも正常に作動しているかのように見せかけすらした。おまけに彼はコン ソールを叩いて、多目的ディスプレイの一つに収容施設の最近の犯罪者移送記録まで表示させた。名前を入力すれば、すぐに目的の人物は出てきた。クロノ・ハラオウン、艦隊の私物化と命令拒否に より提督を解任、以後はこちらにて収容する。 「艦隊の私物化だって? 私物化してんのはどっちだよ、報復強行派め」 「まぁ、俺らも似たようなものかもしれないな…ギャズ、クロノがどこにいるか分かるか?」 「ちょっと待てよ」 グリッグの愚痴めいた言葉に適当に相槌打って、ジャクソンはギャズに尋ねる。彼がコンソールのキーを操作すると、ディスプレイにはクロノの居場所と囚人番号が表示された。 「ここだな。俺たちのいるレーダー制御室より、南西方向に四五〇メートル。囚人番号は独房番号と同じのようだな。あいつ、囚人の癖に自室持ちだぜ」 「その番号は?」 「囚人627号」 果たしてそれは、偶然だったのか否か。地球で活動するTask Force141の兵士たちもまた、一人の囚人を追いかけていた。番号は、627号。 戻る 次へ